■ あの子がね、死んだの。


「名前さん、ノート書き終わりました」

『……ありがとう…』

国語のノートを渡された。最近は彼が近くにいる。

「次は数学ですね」

『…黒子くん、私…』

ボサボサになった髪を黒子は撫でる。

「何ですか?」

『黒子くんが怖いよ…』

「そうですか。でも愛してます」

そんな話しを放課後にした。オレンジがかる教室に、私と黒子だけがいた。

『……………ねぇ、話し変わるけど一週間くらい前に隣のクラスの子、階段から突き落とさた話し覚えてる?』

「…えぇ」

『犯人、捕まったのかな…』

ギプスで動かない指を撫でながら、私は黄昏れた。

「さぁ?貴女は僕だけを見てれば良いんですから、気にしないでください」

私のバックからノートを奪い取り、綺麗にまとめていく彼は狂気の塊とは思えないくらいカッコイイのに。

とても怖い人。

『何で、そんな私に付き纏うの?…私、好きな人が「階段から突き落とさる様なマヌケな男子、」


ですよね?、と黒子は顔をあげた。

「………、」

『マヌケなんかじゃない…』












***











また、彼の背後に立つ。今度は息の根を止める。
彼のポケットに入っている携帯をこっそり回収したのはさっきのこと。


まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだ、



まだだ…。お前がいる限り…、彼女は、

「死んでください」

今度こそ。



……今度こそ、逃がさない。離さない、彼女を離さない、離させない、…だからコイツを突き落とせ!!

背中を思い切り押した。彼は絶叫する。


良い気味だ。ざまみろ。

回収した携帯を片手にメールを作成した。


彼の電話帳から家族へ一斉送信する。
彼の遺書に見せかけたボクの思い。


"大切なものが奪われました。もう、堪えられません。さようなら。"

ハンカチで携帯を拭って、柵の外へ投げ捨てた。












***












翌日。その日は金曜日だった。朝から自宅にインターホンが鳴る。仕事で両親はもういないから出るのは当然私だ。

ドアを開けると私の恐怖対象である彼が立っていた。

『黒子くん…、朝からどうしたの?しかも何で私の家を…』

「今日は学校はナシです。そろそろ連絡網が来ると思いますよ」

途端に家の奥で鳴る電話。黒子は、ほら、と笑う。


『とりあえず上がって良いよ……』

今の私はあまり乗り気とは言い難い表情だ。

中の受話器を取り、もしもしと言った。

「あ、苗字さん?今日、学校ナシだって〜、連絡網回してね…、って苗字さんが最後か!あはは」

クラスメイトの声は嬉しそうだ。そして背後に彼の存在を感じた。

『う、うん…。何か、あったのかな?』

背後の存在がフッと笑った気がする。

「なんかさ、噂だと誰か屋上から飛び降りて死んだらしいよ。自殺だったと思う」

『自殺!?』

「……君がボク以外を愛すれば、その人は自殺する…」

ボソリと聞こえた声が怖くて硬直した。

「そうなの!あくまで噂だけどね。じゃあ用件は伝えたから」

ブツッと切れた通話。

『……黒子くん、…………殺したの?』

「言った通りですよ?自殺なんですから、ボクは手を出していません」



彼は狂ってる。誰か止めて。

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