■ 指を絡めて、へし折る。


あれから一週間がたった。彼からは何の干渉もない。とはいえ、彼のすることは何もかも異常に見える。

誰かの写真を切り刻んでいたりと情緒不安定な行動を何度か見た。


『黒子くん、』

心配になって近づいた。誰ひとり気にすることなく日常を過ごしている中、私たちだけ時間が止まった感じだった。

「珍しいですね、声をかけてくれるなんて」

『だって最近の黒子くん、アブナイ人になってるよ?』

「否定はしません。でも邪魔者の始末が追いつかなくて…」

邪魔者…?

『邪魔者って誰?』

クスリと黒子は笑って写真かも分からなくなった紙屑を机の外へ払う。

はらはらと舞落ちる紙屑は床に広がった。

「気にしないでください」

『………』

何かを企んでいる気がしてならない。

「そういえば、名前さんて確か、ピアノ好きですよね」

『……うん、まぁ。趣味みたいな…』

私の手に触れてくるものだから、屋上での記憶が蘇り手を払おうとした。

「…何もしませんよ」

確かに今回は何も持っていない。カッターも何も握っていない。

「お人よしですよね、貴女は。普通なら怖がって寄って来ないですよ」

『別に…、何か様子がおかしかったから』

「チャット、移転したでしょう?」

そういうことか、と納得した。私の手を弄る彼はなかなか離してはくれない。


『…………』

「何故、移転したんですか?酷いです……」

ギリッと手を握る。少し痛かった。

『……私の勝手じゃん』

「どうしてですか?君はボクのなのに…」

そんな悲しそうな目で言われても私の心は動かない。だんだん強くなる握力。

『く、黒子くん、いたい…!離して』

「質問に答えてください」

フッと握力が無くなり、私の右手の指を黒子は摘んだ。痛みの余韻がズキズキと残る。

『……っ、何するの!』

「……………」

指を絡めたり撫でたりする彼は目を細めた。

『黒子くん、聞いてるの!?』

「……面白いこと思いつきました」

私の人差し指をグッと掴み、本来曲がるべき方向とは逆方向へ指を曲げはじめた。

そして、バキッと嫌な音がした。激痛が走る。
目を見開き、涙がでた。

『いっ…やあああああぁぁぁあああああっ!!!!』

右手の人差し指がダラリとして動かない。
私は絶叫をしながら床へ尻餅をつく。

「名前さん!大丈夫ですか!?」

ニヤニヤ笑う黒子が近づいてくる。
クラス中の生徒の視線が集まる中、黒子は私を背中におぶさり保健室へ走った。











***












一階の保健室に着くと私は痛みで動けなくて黒子の背中にがたがたとしがみついたままだった。

「…痛いですか?」

『……っ、ふえっ』

泣くのを我慢しても嗚咽が漏れる。
保健室の先生が駆け付けてくる。

「何があったの!?」

ただならぬ私たちの雰囲気に先生は慌てている。
ついに泣き出した私に黒子は口を開く。

「右の人差し指を机に引っ掛けてしまって…」

『…っ』

指先が麻痺して何故か右腕全体がガタガタと震える。コイツが私の指を折ったと言いたいのに言えない。

「見せなさい!」

黒子の肩に回された右腕を先生が引っつかみ、人差し指を眺めた。
ダラリとうなだれた人差し指を見た瞬間、車の鍵らしきものを握って、来なさいとベランダへ促す。黒子に振り落とされないように、必死にしがみついた。

『黒子くん…っ、きらい…、だいきらい』

黒子の白いブレザーに涙を落とし、何度も呟いた。

「そうですか。でもボクは愛してますよ。君がボク無しでは生きては生けないようにして…、一生離さない」

小走りの彼は少し息が荒い。黒子が怖くて、手を離してしまいたいくらいなのに離せない。
先生の車に乗り込む。行き先は言わずもがな病院だろう。

「貴方は教室に戻りなさい。担任の先生に報告して!」

「はい」

黒子が車から出ようとする。でも私は黒子の背中にしがみついままだった。
怖くて堪らない。

「名前さん、離してください…」

静かに泣いたまま私は黒子に張り付いた。ブレザーを握りしめた。
黒子がニヤニヤと笑っている。

「いいわ、君も乗って!!」

先生が言ったと同時に黒子は無言で再び車に乗り込む。

「……ボクのこと、もう離せなくなりましたか?」




誰か助けて。コイツ、狂ってる。

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