■ 変化する日常。
優しい好青年はバスケ部でつい最近一軍になったらしい。
『そっか、会えて嬉しいよ!黒子くん』
彼の手を取り自然と微笑んだ。そんな名前に彼は驚いたのか、反応が少し遅かった。
「……ボクもですよ…」
『ねぇ、このあと屋上でお話しよう!!黒子くんの読んだ本についてもっと聞きたいの』
有無を言わさずに手を引いた。
黒子はそのまま屋上に連れていかれる。
廊下をパタパタと小走りに歩く二人は階段を昇ろうとする。
「名前さんは好きな人いるんですか?」
『はあ!?』
バッと振り向いた名前に黒子は微笑む。
途端に名前は階段を踏み外し、後ろにいた黒子に飛びつく。
「こんな階段から落ちるくらい動揺するってことは…、いるんですね?」
にやりと笑う彼はカッコイイが何か怖かった。
『へっ!?いやぁ!えと…、………バレちゃいましたかぁ!!はははは…』
恥ずかしくなって彼の腕の中で顔を隠すために額を押し付けた。
「片想いですか?それとも付き合ってるんですか?」
『……片想いだよ。私の…。私みたいなショボい女子が付き合えるわけないじゃん』
フッと黒子から離れてゴメンと謝った。
「名前さんは魅力的だと思いますよ?」
再び階段を昇り始めた。黒子は名前がまた階段を踏み外さないようにするためか手を繋いでくれる。
『黒子くんは紳士だね』
「そうですか?」
『手を繋いでも下心?みたいなものが見えないもん』
屋上のドアを開ける。少し肌寒くて二人で身を縮こませる。
「そうだ、魅力的な例を言います」
先程の続きらしかった。
『そんなに無いでしょ。いままで同じクラスでも話したこと無いし』
「いえ、そんなこと無いですよ」
屋上の奥で二人で座って向かい合った。名前は壁に背中を預けて、黒子は柵を背景に。
『いやいや…、そりゃ無いって』
黒子は怪しく笑って名前の手に自らの手を乗せた。
「例えば、他の口うるさい女みたいに着飾らないし、清楚です。それに、誰にでも優しいと思います」
『へぇ〜、他人から見たらそんな感じなんだ』
黒子は更に身を乗り出してきたので名前は少し後ずさろうとする。
「それから、声。その声が好きです。ちょっと寝癖で跳ねた髪も、チャットのやり過ぎで寝不足の目とか、この体とか、可哀相なくらい一途な所とか…、」
声が低くなっていき、黒子が名前の首元に顔を近づけた。
『く、黒子くん…近いよ?』
「ほら、その顔がボクを誘うんです。何故他の男を見てるんですか?」
貴女にはボクだけで十分でしょう?、と呟かれた。
『何言って…』
「名前さんが好きなのは隣のクラスの男子生徒ですよね?」
『は…?、なんで、そのこと…』
「知ってますよ。何でも。………名前さんの好きな本、人、モノ、趣味、色、好み、…経歴とか、家族のこととか…、たくさん…知ってます」
黒子が離れて嬉しそうな顔で見つめてくる。
『やだ…、なんなの……?』
「何って、名前さんに恋する青年ですよ?」
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