■ 6秒

 黒子が反応するようになったのはお昼頃。
 黄瀬が買ってきたマジバのバーガーをかじりながら黒子は目を逸らし気味に言った。

「朝、名前さんのスカートをめくりました。すいませんでした」

「「(唐突に何言ってるの!?この子!!)」」

 黄瀬と桃井の心中が荒れ狂う中、黒子は尚も続ける。

「ドッキリのつもりだったんです」

「ドッキリにしては、たち悪いっス!!」

「………女の子にそれはダメだよ、テツくん」

 黒子は魂が抜けたような顔で更に衝撃的な事を言った。

「それで……、キスして押し倒しました」

「それもドッキリなの!?」

「はい。そのつもりです」

 黄瀬がミネラルウォーターを啜りながら、うなだれた。

「それでネタバレしたら殴られたんです」

「もうやだ。この子」

「テツくんの天然キャラは凶器」

 桃井が顔を手で覆い、黒子に背を向ける。黒子の悪戯が可愛いなんて言ってられない。
 いわゆる乙女の純真を弄ばれたのであろう名前はきっと殴ってしまったことを黒子に謝りに来たのだろうと黄瀬は勝手に思う。
 律儀で誠実なのは黒子だけではない。名前だって同じなのだ。

「それは黒子っちが悪いっス」

「そうらしいですね。スカートは良くなかったと思います」

「それより重罪してるよ、テツくん」

 黒子が怪訝な顔をする。

「重罪ですか…?」

「押し倒したって言ってたじゃないスか!!」

 桃井も頷く。

「あれは本気でしたよ。というかドッキリなのはスカートをめくった事ですよ」

「「は?」」

 ピタリと黄瀬と桃井が固まり黒子を見た。じゃあさっき、ドッキリのつもりでやった発言は何なのかと聞く。バーガーをかじりながら黒子は心外だと言う。

「ですから遊びで押し倒したわけではないですよ」

「言葉が足りてなくて俺達まで勘違いさせられただけっスか…。どっちにしろ重罪っス。名前っちはきっと誤解してるっスよ」

「テツくん、私も謝らなきゃいけないし…」

 今度は三人でため息をついた。







***








「そうだったのかい。僕の胸を貸してあげよう!!」

『赤司お母さんッ!!』

 駅のホームのベンチで名前がグズグス泣いた。名前の背中をさすりながら赤司はこっそりタッチパネル式の携帯に指を滑らせた。

「(テツヤもドジだね)」

 赤司が送信をしたころ、名前が離れる。

『…赤司くん、元気出た』

「そうかい。でも僕は京都にもどらなきゃ…」

 ホームに振動が伝わり放送が流れる。

『…また、来てくれる?』

「あぁ。次は夏に帰るよ」

 別に遠距離恋愛をしているわけではない。それ依然に付き合ってすらない。
 反対側のホームに電車が滑り込む。赤司が乗る電車が来るのは10分後。

『本当!?』

「その時はメールするよ。それと僕と賭けをしないかい?」

『お金賭けるのはちょっと…』

 赤司は笑う。

「お金は賭けない。賭けるのは名前だよ」

 名前は目を見開いた。赤司は微笑を浮かべたままだ。

『…え』

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