■ 12秒

 黒子が名前の両親に挨拶に行ってから4日程経った。相変わらずラブラブで、毎日飽きもせず写真を撮りまくったり、互いの頬にキスをしあったりと、とにかくリア充だ。
 すこし暑くなり、篭球同好の教室にあるベンチで桃井とリコに挟まれてグッタリしていた。
 未だに桃井を敵視している名前だが、桃井はあまり気にしていないようで、巨乳を振り乱すように抱き着いて来る。黄瀬の次に大きな犬だとリコが以前言っていた。
 黒子たちは暑いというのにストバスに行ったわけだが、どうも様子がおかしかった。一緒に行くと言うと慌てた顔の桃井に巨乳パンチを顔面に食らい、リコになぜかハリセンで叩かれ、青峰が俺に浮気するかと言われたりしたのだ。
 それからずっとベンチに三人で座っていたのだが、カタカタと扇風機が生暖かい空気を掻き回しながら頑張る中、あまりの暑さに誰も話さなくなった。

『(……………………)』

 リコがハリセンで扇ぐが全く涼しそうには見えない。桃井は目をつむっていた。

 妙にゆったりした蒸し暑い時間が過ぎていく中、引き戸が開いた。名前だけが視線をそっちに移す。そこには黄瀬が立っていた。

「うわッ、汗だくじゃないスか!?」

『……熱すぎて…』

 黄瀬が笑顔でエアコンの電源を入れた。

「エアコンくらい入れたらどうっスか?」

 キメ顔で言った矢先、ボフンとエアコンから一年分の埃が舞い上がり、黄瀬の金髪や顔を汚す。
 黄瀬は唖然とし、埃まみれの顔が徐々に歪んだ。

「………あ」

 じわりと涙を浮かべた黄瀬に馬鹿だと心で罵りながら見ていた。

「ふえ…、名前っちいいいいいぃッ!!」

 埃まみれのイケメンが悲しみのあまり両手を広げて名前に突っ込んだ。

『わッ!汚いッ!!』

 そんな名前の言葉も無視し、黄瀬は抱き着こうとした。

 しかしそれは突然現れた黒子によって阻止された。真横からいきなり黄瀬に跳び蹴りをしたのだ。
 丁度黄瀬の脇腹に入ったのが見え、エアコンからの何とも言えぬ悪臭に顔をしかめた。

「汚らわしい顔と体を名前さんに近づけないでください」

 ドス黒いオーラを身につ纏い、黒子がガラにもなく指をボキボキとする。それにフィルターがかかったかのように名前には格好よくみえた。

『お帰り、ストバスはどうだった?』

 黒子はビクリと肩を震わせ、名前を見る。そのまま膝を床に付けて屈んだ。

 名前の手を取るとポケットから何かを取り出した。

「名前さん…」

『え…?』

 何かの衝動に駆られたように唇に唇を重ねた。同時に強く握り締められた手の薬指に違和感を覚える。

「アアアアアアァァァアッ!!黒子っち!!キスは余所でやって俺恥ずかしいっス!!」

「ならきーちゃんが出てったら?ムード壊してるし…」

 桃井の呆れ顔と共にリコがハリセンで軽く脅した。

「……あんたのズボンの中のもの、潰されたくなかったら静かにしなさい(ハァト)」

 バチコンとウインクをするリコに黄瀬はすっかり怯えてしまった。
 その間も名前と黒子のキスは続いていた。角度を変え、名前が逃げようとすると後頭部に片手を回して固定し、更に深くなる。
 二人の唇が僅かに離れると唾液が名前の唇から、黒子のチロリと出された舌に繋がっていた。
 黄瀬はエロいだの不純なことを思いながら二人を見守る。

『…人前で、…何するの……』

 顔をゆでだこの様に赤くした名前が喋ると唾液の糸は切れてしまった。
 黒子は構うことなく、名前の手を離して、立ち上がった。
 手の離し方が少しぎこちなく、名前は思わず手元に落とす。
 そこで左手の薬指にリングがついていたのが分かった。

『…これ』

 黒子を見ると曖昧に笑みを浮かべて、遠慮がちに言った。

「ボクと結婚してください」

 その言葉に涙が溢れ出す。悲しさとは違い歓喜に満ちた涙である。
 いつの間にかギャラリーには皆が揃っており、その中には京都にいるはずの赤司や、秋田の大学に通う紫原も見守っていた。

 名前はスウッと深呼吸をすると、ベンチから立ち上がる。そして一気に吐きだすと、黒子の目を見た。

『はい。結婚しッ』

 言い終わる前にゴッと黒子の体当たりのような抱擁が炸裂した。

「ありがとう、ございますッ!!子供は女の子二人が良いです、一人はボク似でもう一人は名前さん似で……」

 黒子の声が震えていた。名前は子供をあやすように背中を撫でた。

『そうだね。お父さんも言ってしね、女の子二人が良いって』

 少し離れて、見つめ合い、顔を互いに近づける。

 しかし、突然視界にハサミが乱入し、慌てて離れた。

「二人とも、幸せ真っ只中すまないが、続きはシェアハウスでしてくれないかい?」

 赤司が瞳孔が開きそうな位に目を開けて、シャキンシャキンとハサミを鳴らした。赤司に言われ、夢から覚めたように名前は顔を更に赤くしてしまう。
 そして黒子の胸板に顔を押し付け、顔を隠した。

 青峰がリア充が…、と呟く。そんなこともお構いなしに黒子は名前を抱きしめると、赤司に言った。

「そうさせてもらいます」

 赤司が頷き、教室を見渡した。

「明日、飲み会をしよう。今日はテツヤと名前には僕のオススメのレストランでディナーをしてもらうよ」

 勝手に計画を始める赤司に名前は戸惑い、顔を上げる。それに気付いたのか、黒子は微笑んで誰にも気づかれないように頬にキスをおとした。





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