■ 11秒


 黒子が引き攣った笑顔で言う。今日のために何度も練習した表情。練習と何一つ変わらない引き攣り具合だ。

「黒子テツヤと申します」

『(…がんばれ)』

 期待を込めた目で名前と名前の母親が黒子を見つめる。一方の父親は微動だにせず黒子を見据える。

 高校一年生の時、ウィンターカップで陽泉と対戦したときのような威圧感がある。だからといって引くわけにはいかないのだが。

「ボクは名前さんと結婚がしたいんです。名前さんをください!!」

 黒子が深々と土下座するように頭を下げた。

「黒子くん。頭を上げなさい」

「はい」

 黒子の表情は引き攣った笑顔ではなく真剣な眼差しに変わっていた。

「オレは孫が二人欲しい」

『ぶふっ』

 名前は顔を真っ赤にして噴き出す。


「はぁ。つまりそれは」

「男としての努めを怠るな。夜の努めはオレの孫を作る努めだ」

『もう止めて』

 黒子がキラキラと顔を綻ばせる。

「全力で子作りします!!やはり男の子と女の子でしょうか!?」

「ばかもん。二人とも女の子だったら膝に乗っけてパパって呼んでもらうんだッ!!」

 ガッと身を乗り出した父親は黒子の手を握りよろしく頼むと力強く言った。



『なんで男ってあんななんだろうね』

「男は皆ヘンタイよ」







***








 帰りの電車でもゲロゲロに酔った名前は黒子におんぶされながらシェアハウスに入った。


『おええぇぇえ…』

「今からベットであんあん言わせてあげま"っ…」

 黒子の首を締め上げる。
 酔いから少し覚めたのかだんだん締める力が強くなっていく。

『テツヤくうぅうん?逆に私があんあん言わせてあげようかァ?』


「それも良いですね」

 黒子の部屋のベットに転がると名前は掛け布団に抱き着く。

『…………』

 すっかり窓の外は暗くなっている。
 黒子がカーテンを閉めてシャツを脱ぎ捨てた。名前はウトウトとする。

「ほら、可愛い服がシワになりますよ」

 有耶無耶のまま春らしいカーディガンを脱がす。

『う〜…』

「ちゃんとパジャマ着て来てください」

 名前は仕方なく起き上がると自分の部屋に戻って行った。黒子はスウェットを着ながら嬉しそうに微笑んだ。

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