■ FREEZE.
※狂愛
朝っぱらから名前は図書館にいた。新設校の誠凜高校は図書室ではなく図書館という別館にある。
それくらいに、蔵書量があるのだ。
私は今年で高校に上がった。解放されると思っていた。
しかしそれはただの妄信だったようだ。久しぶりの感覚を思い出せば、それは嫌なくらいに自覚をさせられる。
いつ、どこでも、アイツは私を、監視している。
この静かな図書館でさえも、アイツは息を殺して私を見ている。
「お久しぶりですね。…………名前にとっては」
落ち着いたテノールの声が耳に届いた。
手が震えるのを気づかれないように握りしめる。
『く、黒子くん…』
平然を装い、名を呼んだ。テノールの声の主、黒子は椅子に座る名前の真後ろにいた。
「…相変わらず可愛いですね。中学の時から変わってないです」
恐ろしくて振り返ることも出来ない名前の肩に、黒子の白い手が乗っかる。
『何の用?』
黒子の手が、名前の肩から首へ移動し、耳を撫で、頬を白い手で包み込む。
「愚問ですね」
黒子が背中を丸めて屈むと、手は頬から離れ、変わりに腕が名前の身体に纏わり付いた。
名前は身じろぐが、黒子は押さえ込むだけである。
『離して』
「…今日、ボクの家に行きませんか?」
耳元で囁かれる声に冷や汗が伝った。
『わ、私用事があるの…』
「帰宅部のくせに?嘘なんて酷いですね」
とにかく、来てほしいんです、と黒子は呟き、気が付いたら消えていた。
名前は拍子抜けして、椅子から激しく立ち上がる。
∝∝∝
放課後、名前はこっそりと玄関を出た。
入学してから三ヶ月、誠凜に黒子がいることを知らなかった為にクラスまでは分からない。
しかし黒子は名前のクラスを把握済みだろう。
黒子とは中学から一緒であるが、名前は苦手である。
それは黒子にストーキング癖があるからだ。
今まで黒子に付き纏われ、その間なくした物もいくつかある。
高校に入れば、解放されると思っていたはずなのに期待は淡く崩れた。
校門を過ぎた辺りで、目立たないように歩道の端っこを歩く。
家に帰るまで気は抜けない。周りを見ながら、早歩きで歩道橋を渡る。
登下校が歩きともあり、家は15分くらいでつく。
とは言うものの家に着く頃には、息は完全に上がっていた。
慌てて鍵を開けて家に入る。チェーンを掛け、鍵を閉めた。
肩で息をしながら、靴を脱ぐとローファーがコロンと転がる。
二階へ上がり、部屋に入れば黒子から逃げられたことを改めて感じ、達成感に満ちあふれた。
荷物を放ると制服のまま、ベッドにダイブし枕を抱きしめた。
『(逃げきった…!)』
しかし、ベッドのスプリングがギシリと軋む音がし、名前はもぞりと顔を上げる。
布団に自分以外の重みが掛かった。名前は目の前の光景に目を疑った。
「貴女が逃げることなど予想の範疇ですから。…でも、約束を破ったのは紛れも無い、名前だ」
語気が強くなり、黒子は無表情で言い放った。
『ちがっ』
黒子の手が名前の首をギュウッと絞める。名前に覆い被さる黒子は口元に笑みを浮かべ、苦しそうにもがく名前の唇に唇を重ねた。
「名前、本当は貴女を閉じ込めようと思っていたんですよ」
手の力が強くなり、名前の意識は朦朧としていた。
「でも逃げてしまうなら、死にましょう?」
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