■ そうして依存する
黒子が夜遅くに帰ってきた。小学5年生の名前は、リビングの入口をチラリと見たくらいで、気にも留めなかった。
「ただいま」
黒子が買い物袋を置いて、すぐに名前に寄り添う。
名前はカーペットの上に座り込んだまま、黒子の腕の中で小さく息をする。
軽い抱擁の後、黒子は名前の髪の毛を撫で付ける。
「今日はどうでしたか?宿題は済みましたか?」
優しい声と表情で問うが名前から返事はない。
黒子は名前の腋の下に手を差し込んで、よっこいしょと持ち上げて、自らの膝に乗せた。
軽くてやせ細った小さな体はだらりと黒子に身を任せてくる。
「名前、」
名前の肩に黒子のおでこが乗っかる。
名前のスカートから覗く足は一本しかなかった。 二人の関係は兄妹でも何でもない。
名前は黒子の家に居候しているだけなのだ。
名前は火事で両親と左足と家を失った。火事に見舞われたときに火神に助けられ、そして黒子に出会った。
それからかれこれ半年間、一緒に住んでいるが、名前は黒子の問い掛けに答えてくれたことはない。
何もしないで、リビングのカーペットの上で唯一の持ち物のウサギの人形を抱えて座っている。
黒子の手伝いがなければ、自分からは全く動かない。
それでも黒子は諦めずに、名前を介抱し続ける。
きっとそれは黒子が保父という立場ということもあり、責任が強いからかもしれない。
もしかすると自己満足かもしれない。
まだリハビリが必要な名前にとっては黒子が重要な役割を果たしている。
「(ボクは名前に依存している・・・・)」
抱きしめて改めて思う。
自分を正当化するための人形を抱えているような感覚なのだからだ。
黒子は心の中で謝った。
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