■ 透明少年の進学先
※透明少年依存症の番外編
「姉ちゃあああぁぁぁああんッ」
帰ってくるなり涼太の馬鹿でかい絶叫が、名前を襲った。
塾の先生を初めて半年。黒子が高校へ進学して3週間程。
『うるせぇ!馬鹿涼太ッ』
玄関で私は怒鳴り散らした。そして、腹パンを一発入れて、靴を脱ぐ。
「ぅ・・・、痛いっス!」
黙れとすねを蹴り、階段を上る。涼太は痛いと言いつつ、名前の部屋まで着いてきた。
「ね、姉ちゃん!!なんで教えてくれなかったんスか!」
『何が』
「黒子っちの進学先っス!!」
『聞かれなかったから』
「ええええぇぇええ!?聞いたら教えてくれたんスか!?」
『別に口止めされてなかったからね』
口止めされる程度の信頼関係では恋人とは言えない。名前はため息をついて、涼太を見上げた。
『それに、あんたらさ、全中の後、何かあったでしょ』
あの時の黒子はひどく弱っていた。
だから黒子が姿を消したと聞いたとき、言ってはいけないような気がした。
「そんなことないっス!別に皆仲良しだったっスよ」
『テツヤが消えたってビィビィ喚き泣いてたのは誰だったかねぇ・・・・・』
「・・・・う、やっぱ姉ちゃんには敵わないっスわ」
『百年早いね。私に勝とうなんて』
部屋に入ると、涼太まで入って来たが名前は咎めない。
「はぁ・・・・、今日黒子っちにフラれたんス」
『え・・・・?テツヤの彼女は私なんだから当たり前じゃね?』
「いや、そういう意味じゃなくて」
涼太がモゴモゴと言葉を濁らせると、名前はじれったくなり、はっきり話せと肩にパンチをした。
∝∝∝
昨日、黄瀬が誠凜高校に来た。火神と黄瀬が1on1をして火神が負けたのだが、黒子には気がかりなことがあった。
名前は塾の先生をしている。東大に挑める程の学力の持ち主なのだ。
受験シーズンには黒子も苦手な教科をレクチャーしてもらった。
そんな名前だからこそ、黒子には心配な点があった。
それは塾での生徒の話。
会う度に名前は黒子に我が教え子のことを自慢してくる。
ある男の子が嫌いだった関数を好きになってくれたとか、一人で英作文が書けたとか、そんな他愛のない話しである。
黒子は小さく溜め息をついた。
目の前の席の火神が、その小さな空気の漏れに気がつき、振り向いた。
「後ろで溜め息なんかつくんじゃねぇよ」
辛気臭くなんだろ、と火神が文句を言う。
「火神くん、彼女が他の男について語ってたら、どうしたらいいのでしょうか」
「は?つかお前彼女いたのかよ」
「結婚前提で付き合っています。ちなみに身篭ってます。秘密ですよ?」
火神がブゥッと噴き出した。
黒子は何一つ嘘をついていない。
「結婚前提…!?」
「はぁ…、名前さんの血を舐めたくてムズムズします」
「血を舐めたい!?」
火神が完全に固まると同時に、黒子は再び溜め息をついた。
∝∝∝
放課後、黒子は名前と落ち合う。
集まったのは公園だった。周囲が既に真っ黒なのを良いことに、二人は抱きしめ合う。
黒子は名前の唇を舐め、すぐに首筋に噛み付く。
『!?』
「あわれないれくらさい」
ちゅうっと血が吸い出される。舌が一滴も零さないようにと這う。
『ちょ…』
名前が反抗の意を現し、黒子の肩を掴んだ。
するとガリッと音がするくらいに黒子は牙を立てる。血液が更に溢れ出す。
名前の意識が遠退きそうになったところで、黒子は離れた。
「少し多めに貰いました」
貧血でフラフラの名前に対し、黒子は少し元気になった気がする。
「週末しか会えないと、どうしても辛いので…」
子供が人形を抱えるように、少々乱暴に抱きしめてくる。
そして抱きしめ方が強すぎて背骨が痛い。
「だから少しだけ…」
血を吸うことなのか、こうして触れ合うことなのかは言わなかった。
しかし名前には解っている。
黒子が言いたいことを。
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