■ 1秒

 19時すぎ、名前が軽い夜食を作っていた。
 その後、黒子が来て冷蔵庫から卵を出しているのが見えた。

「何、つくるんですか?」

『ゆで卵です』

 可愛らしいなと名前が微笑む。
 止めていた作業を再開した。思えば黒子は変なところもあるがいい人だと思う。



***



 先にリビングでご飯を食べていた向かいの席に黒子が座る。
 手元を見ると大きな皿にゆで卵が大量に鎮座していた。
 小皿には塩、マヨネーズの二種類ある。名前はお惣菜のコロッケを思わず箸から落としそうになった。
『ゆで卵オンリー…ですか?』

「はい。かれこれ半年、ゆで卵しか食べていません。ゆで卵しか作ったことないので」

 微かに同情し、静かに名前はキッチンに戻った。
 明日の朝ごはんである今日の残り物を皿に盛り付け、そっと黒子に出した。

『食べていいよ。というか食べて』

 黒子が驚いた顔で良いのかと言う。

 
「でも、自炊のルールが」

『あれ、撤廃。男は黙って飯食ってろ』

 いつもの口調に戻ってしまった。敬語は堅苦しくて苦手だ。

「ありがとうございます」

『そのかわり、そのゆで卵は没収』

「え」

『明日の朝ごはんに使うから』

 皿を奪うとラップをしてゆで卵を冷蔵庫にしまった。

「あの、苗字さん、ありがとうございます。それと、さっきから思ってたんですが、敬語きついんじゃないですか?」

『え、き、気のせいですよ』

 ホワイトボードの自炊を消している名前に黒子が言った。

「別に先輩云々とかは気にしてないので話し言葉で大丈夫ですよ」

『……………なら、遠慮なく。というか黒子さんも敬語やめてほしいんだけど』

「それは無茶なお願いですね」
 

 キリッと言った黒子に心底腹が立った。



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