■ 風邪の日

 夕方、目が覚めた。風邪を引いて学校を休んだ名前は、昼からずっと寝ていたのだ。
 五月に入り、日も少し長くなり、新しいクラスに慣れてきたところ。そんな最中、中間考査も近いというのに休んでしまった。
 名前は寝返りを打つ。モゾモゾと音をたてて壁に背を向けた。

「どうも、体調はどうですか」

 ジャージを着て、無表情でベットの端に寝転がる彼。誠凜高校一年、バスケ部レギュラー、黒子テツヤ。

『くッふぐぅっ!?』

 黒子は名前の口を手で塞ぎ、大人しくしてないとダメです、としれっと言った。
 彼は名前の一学年上の先輩で、唯一の男友達である。これといって共通点は無いが、お互い彼氏と彼女という立場。
 進学先は推薦で誠凜高校だと決まっている名前に勉強を教えてくれている。

「病人は大人しくしててください」

 手が離れ、黒子が名前を抱き寄せた。名前も応えるように抱き着く。

『何で風邪引いたの知ってたの?』

 黒子の胸板に頬をくっつけて見上げる。すると黒子は名前の頭を撫でながら、胸騒ぎがしたと言った。

『エスパーか…』

「まぁ嘘ですけど」

 帝光にいる後輩からメールが来て知ったと付け足した。きっと桃井の後輩あたりだろう。バスケ部マネジャーの情報網は恐ろしい。
 むしろマネジャーではなく情報屋だろう。

『それでわざわざ来たんだ』

「死なれたら困りますから」

 過保護だなと思いつつ、顔面を黒子の胸に押し付けた。

『死ぬわけないじゃん』

「でも心配だったので」

 黒子の体温が心地好くて何度も擦り寄る。猫のような行動を受け入れ、頭を撫でられる。

『風邪うつるよ?』

「自分から抱き着いてきている人が言う台詞ですか」

 えへへと笑えば黒子も笑ったような気がした。黒子にメールを送ってくれた友達に感謝だ。

『だって充電しないと死にそうだし』

 甘ったるい会話をしながら目をつむった。

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