■ HAPPY BIRTHDAY!!
雪もまだまだ降るこの季節。降るといっても実は積もっているわけではない。
そんな曖昧な天気と風景の中、私たちは理科室にいた。
『黒子くん、お誕生日おめでとう』
移動教室で理科の実験も終わり、人がまばらになり、ふと思い出したようにみせかけて彼に声をかけた。
「え…」
接点のない私が言うのは変だろうか。黒子くんは驚いたような顔をした。
『今日、誕生日でしょ?』
「あ、はい。ありがとうございます」
でも何で、と黒子くんが持ち上げかけた教科書などを机に再び置く。
『私、広報係だから教室の掲示物を作ってるの!ほら、背面黒板の右下に誕生日コーナーあるでしょ!?』
「そうでしたっけ?」
『あるの!1月は黒子くんしかいないから、覚えてたんだよね!!』
黒子くんは知らなかったと気まずそうに言った。
『気にしないで!』
先生が戸締まりを私たちに頼んで出ていく。
『黒子くん、呼び止めてごめんね?教室に戻っていいよ』
黒子くんの荷物を無理矢理、渡して理科室から追い出す。
「あ、あの」
『戸締まりしなきゃだから』
早口で言って私は彼の背中を押し、俯いた。顔が熱くて仕方ないのだ。
「苗字さん!?」
黒子くんを理科室から追い出すと引き戸を思い切り閉めた。
シンッとなる理科室。引き戸にもたれ掛かり、ズルズルと座った。
『はああぁぁ…、こんなつもりじゃなかったのに。作戦失敗…』
私は彼に声をかけたのには理由があった。本来の予定では、お誕生日おめでとうとさりげなく言って彼を落としハッピーエンドのつもりだった。
桃井ちゃんがそうすると男なんてイチコロと言っていたのだ。
『…だまされた、全然イチコロじゃない』
「もうイチコロですよ」
『……はぁ。華の女子中学生が枯れてるので話しかけないでください…』
「苗字さん、枯れないでください。水ならあげますから。顔をあげてください」
ちょっと待て!何故愛しの彼の声がする。バッと顔を上げた。
『く、くくくくくろ、黒子くん!?』
「あまりにも強引に追い出されたので…、何事かと」
しゃがむ黒子くんと同じ視線で話す。
『あ、えと…』
「ちょっとイラっとしたので準備室から侵入しました」
『その…』
「瞬殺とはこのことですね」
黒子くんの顔が近づき、唇が重なる。
一目惚れです。
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