■ 覚悟を決めて伸ばした手は
軽い昼食を済ませて、名前はリビングのソファに寝転がっていた。
お昼の番組はどれもつまらない。
尚且つ、くだらない話ばかりであった。
『…………』
チャンネルを変えようとリモコンを握ったとき、臨時ニュースに切り替わった。
ニュースキャスターが手元の紙をチラチラと見ながら要旨を述べる。
〔臨時ニュースをお伝えします〕
名前は何気なくリモコンを置いた。
〔先ほど東京都内で通り魔事件がありました。××交差点の歩道で、三十代前後の男が、女性の胸をナイフで刺し、逃走中です。女性は病院に搬送されましたが、まもなく死亡しました。〕
画面が切り替わり、左上に生中継と書かれていた。
リポーターがカメラを誘導しながら、現場で熱く解説している。
警察が走り回る中、テレビから注意を促すリポーターも大変そうだ。
カメラがズームインすると、歩道に赤い斑点や飛び散ったような血痕が生々しく残っている。
思わず口元を覆った。
『(気持ち悪い…)』
名前はその赤色で彼を思い出す。首を絞めてきた彼の表情はぼやけていて分からなかった。
『テツヤくんもこんな風に死んだの…』
自然に出た言葉に目を見開いた。
『(テツヤくんって、誰だっけ)』
重なる面影はどこまでも無限に続く。
なぜだか"黒子"を頭に思い浮かべた。きっと火神と同じバスケ部の彼は写真の中では無表情だった。
充電器に繋がる携帯が震えた。名前は我に返り、携帯を手にとると画面を覗き込んだ。
火神から電話らしかった。噂をすればなんとやら。実際に噂はしていないが。
通話ボタンをタップすると、携帯を耳に当てた。
『…もしもし』
「あっ!苗字、大丈夫かよッ!!ゲロ吐いたってセンセーが」
『…何の話?』
時間帯からして昼休みなのだろう。
しかし火神はなにか勘違いしている。
「平気なのかよ」
『熱は下がったけど…』
ゲロなんて吐いていない。名前はテレビを消して、リモコンを机に置いた。
「そうか。…その、昨日は悪かった。怒鳴ったりしてよ…」
『私こそごめん。でも、黒子くんが誰なのか分からないままで、…だから教えて』
黒子くんのことを、と力強く言った。
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