■ この手を血で染め上げて
手から落ちる液体が、アスファルトに零れた。
(残ったのは何だったか)
∝∝∝
深夜の名前の家は既に寝静まっている。
黒子は固定電話の前に突っ立ていた。
すると固定電話からは電子音が鳴り響く。ディスプレイには"ルスデン 1ケン"と表示された。
黒子はそれを眺め、ふらりと暗いリビングを出た。目指すは二階。
階段をトントンとリズミカルに上がると、廊下の突き当たりのドアを静かに、ノックもしないで無遠慮に開けた。
ベットに力無く横たわる名前が見える。
同時にベットの横に突っ立ている血まみれの自分が視界に入った。
「…なんて醜いのでしょうか」
黒子が呟くと、血まみれの黒子がゆっくりこちらを向いた。
「…ボクもキミも変わらないです。同じ存在なんですから」
血まみれの黒子は滑稽だと口元を緩める。
「名前が忘れたいと思ったから、覚えていない。それが答えだ。ボクらは"いない"。無償の愛なんてないんです」
血まみれの黒子の左腕には、深々とガラスが刺さっていた。
「でもボクは貴方です。だからボクの忘れてほしくないという気持ちは、貴方の気持ちでもあるんですよ」
血まみれの黒子は目を細め、無表情に変わる。
「そうですね。それでも、ボクは名前の幸せを優先すべきだと思うんです。こんなところで自問自答している場合じゃないでしょう?」
黒子は手を差し延べた。
「……時が経つのを待て、ということですか」
「いえ、満ちるのを待つんです」
黒子の凛とした声が部屋に染み渡る。血まみれの黒子とは対象的に青白い肌を除いて生きた人間のような黒子は、ふわりと笑った。
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