■ 罪と悲しみが交鎖して逃げられない
翌日も火神から写真を貰った。写真に写っているのは知らない男の子ばかり。
火神が深刻な顔で渡して来るものだから、誰とは聞けなかった。
今も貰った写真を眺めている。すると火神が菓子パンかじりながら言った。
「お前、辛くないのか?」
『…なにが?』
名前が写真を食い入るように見つめたまま、聞き返す。
「何って…、そりゃ黒子がいないから」
『黒子くん?誰それ?』
火神がハ?と声を漏らした。
顔を上げた名前が火神を不思議そうに見つめている。
「おま、…え、嘘だろ?」
『はぁ?何なの?』
変な火神だと名前は思った。
「黒子が、…分からないのか?」
菓子パンが潰れるくらいに、握り締めた手の甲には、うっすら血管が浮いている。
『いや、黒子くん自体誰か知らないし』
「…お前、マジでおかしいぞ」
『おかしいのは火神くんでしょ』
嘲るように言うと、火神は殴り掛かる勢いで、名前の腕を掴み上げた。
ひらりと落ちる写真がスルリと床を滑る。
名前が宙ぶらりんになるのにも構わずに、火神は怒鳴り付けた。
「テメェッ!!」
名前は怯えきった表情で火神を見上げる。
「黒子がどんなに苦しんだのか忘れたのかよッ」
我を見失った獣のように、表情は切なそうに叫ぶ火神は教室中の視線を集めた。
「オマエ、黒子の為に泣いてたじゃねぇかよ!!」
名前の掴まれた腕の指先の血色に気がついたのか、火神はゆっくり腕を離した。
一息ついて火神は黙りこくる名前を見下ろす。
「アイツ、きっと泣いてんぞ。お前の為に尽くしてくれたってのに。黒子といた時間は、忘却するほど嫌だったのかよ…」
『………………』
火神が唇を噛み締め、八つ当たりするように、後ろの空白の席を蹴り飛ばした。
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