■ 過去も未来も宝物

 最近、火神の後ろの席は空白である。



 不思議な朝を迎えたと、火神に伝えた。
 すると、まだ三時間目だというのに菓子パンをかじる火神は眉を潜める。

「オマエ大丈夫か?」

『通常運転だよ』

 火神の顔が歪んだのが分かった。名前は、どうしたの?と問うと、火神は菓子パンをかじるのをやめる。
 そして溜め息を一つ吐いた。

「最近よぉ、お前の様子が変だからさ…、なんつぅか…」

『心配してくれてるの?』

 火神が目を逸らして、頬をポリポリと掻いた。

「…ま、まぁ、そんな感じだな」

 名前が申し訳なさそうに縮こまる。

『なんか心配かけてゴメン』

「気にすんな。…あ、そうだった」

 火神がバックの中を探ると、紙切れを一枚、名前に差し出した。

『なにそれ』

 名前が紙切れを受け取ると、不思議そうに覗き込んだ。
 L判のインクジェット紙を裏返すと、名前を見開いた。

「それ、カントクから。部室にあったから、お前に渡してくれって」

 火神が気まずそうに言った。
 名前はインクジェット紙に穴が開きそうなくらいに見つめたまま動かない。

『…………ありがとう』

 ポツリと礼を言った。

 今日も火神の後ろの席は相変わらず空席である。

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