■ 見えない告白

「黒子っちって好きな子いるんスか?」

 黄瀬の何気ない質問に身長とあまり変わらないモップを握り締め床を懸命に擦っていた黒子は手を止め顔を上げた。

「どうしたんですか?いきなり」

「いや、黒子っちって何気に不健全っぽそうで…」

 教育係の黒子はそれを聞いたとたんに、呆れ顔と聞いて損したと言いたそうな表情で黄瀬を見る。そして溜め息をついてモップ掛けを再開した。

「失礼です。ボクだって好きな人くらいいますよ」

 黒子は見向きもせず床を磨き続ける。黄瀬はそれまで止めていた手を動かしはじめ、モップ掛けを始めた。

「意外に男前っスね!!」

「ウザいです。僕は別に女々しくもないですし、歴とした男です」

 わざとモップを振り回し黄瀬に当たるように振り返る。ひょいっとかわされたモップは遠心力が働き黒子はヨロヨロと体育館の真ん中を歩く。

「へぇ〜、帝光中にいるんスか?」

「居ません。住んでる地区が違うので別々の学校です」

 黒子はモップを黄瀬から取り上げ部室に向かう。黒子の後ろには興味津々で黄瀬がついて来る。

「なんだ。おもしろくないっス…」

「ばかにしてるんですか?」

「そんなことないっスよ。でも気になるじゃないスか」

 部室の前で立ち止まり、黄瀬を見上げた。
爽やかに笑って見せた黄瀬の足を軽く蹴ってやる。

「それ以上言うと黄瀬くんの恥ずかしい黒歴史を、黄瀬くんのツイッターのアカウントからツイートしますよ」

「えぇ!?やめてほしいっス!!」

 部室のドアを背中で押して開けると、換気された部室の風景が広がる。奥に置かれている掃除用具入れをガンッと蹴って開けた。自分もビクッとしてしまうくらいの強さで蹴ってしまい、掃除用具入れが勢いよく開いたドアの奥にモップを詰め込む。
 すっかり歪んだ掃除用具入れはこうしないと開けられない。

「告白はしたんスか?」

「しました」

 即答でしれっと答えた黒子は掃除用具入れを閉める。最後には中身が溢れないように、また蹴ってしっかり閉めるのが規則。

「返事は!?」

 男子が恋バナとはなんとも変だがしかたがない。
 黄瀬のキラキラの笑顔に捕まり黒子は『うっ…』と嫌そうな顔をする。

「へ、返事は来てません…」
 7時を過ぎた時計がカチコチと音をたてた。



***



「名前は好きな人いるの?」

 友人は興味津々に言った。思わず勉強していた手を止めて見上げる。

『はぁ…。いるよ』

 適当に言ってまた止めた手を動かす。
 次回の期末考査に向けてテスト勉強をしていた訳だが…。どうも気が狂う。

「告白はされ『…わからないの』

 名前は途端に暗い表情になる。ギリリと握るシャープペンシル。

「なんで?つか何て言われたわけ?」



 「名前さんは帝光中じゃ、…ないんですか?」
 「…うん。違う学校だよ。卒業したらお別れだね」
 「そうですか。残念です」
 「わたしもだよ」
 「なら、ボクも名前さんと同じ学校に変更すれば良かったです」


 時計が7時30分を指した。

「ナニソレ?告白なの?」


***



「黒子っち、それはただのデレっスよ」

「うるさいです」

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