■ もう君の心音は聞こえない

※死ネタ


 目の前に広がる赤を見た瞬間に悟った。
 コンクリートにじわりと滲む血液がボクの脳内を悲しみで満たしていく。

「もう一度だけ目を開いてください」

 力無く横たわる彼女は眠ったまま動かない。
 おかしいな、さっきまで一緒に笑っていたのに。

「声を聞かせてください」

 お願いだから反応してと心で唱える。
 向こうで救急車のサイレンの音が聞こえた。今日は不吉な日だ。彼女の手を取る。

「手を握ってください」

 動かない君は唇を半開きにして、二酸化炭素すら吐き出すこともせずに黙りこくる。
 でもめげない。そうだ、きっと彼女は機嫌が悪いんだ。ならば機嫌を直してもらおう。彼女はコーヒーが大好きだから、家に帰ったらコーヒーをいれてあげよう。
 そして一息ついたら、一緒に寝転がって戯れましょう。

「それは名案ですね。早く帰りましょう。名前」

何気ない話をたくさんしようか。
それから、どうしようか。

「明日はどこに出掛けましょうか?」

 君がいるなら何処へでも行きます。君がいたら何処でも楽しいです。だから、
「隣にいてください」

愛していたし、今も愛しています。
絶対にさよならなんてしてやるものか。

認めてなどやるものか

 手にキスを落とす。熱いのに冷たくて固い。冷たい熱。


「どうか、幸せになってください」



もう君の心音は聞こえない。

「もう寝てしまうのですか」

おやすみなさい、よいゆめをみてください。

「明日も会えますよね」

またね、と呟いた
今日の空はとても澄んだ青だから、ボクが涙を流しても誰も気づかないだろう
title…シンガロン

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