■ インビジブル
私の彼氏は影が薄い。だからよく行方不明になります。例えて言うなら『インビジブル』。
別に透明人間って訳じゃない。ただ単に、影が薄いのだ。
私は今、朝の体育館で一人ぼっちである。
『テツく〜ん、どこ〜?』
どうしよう、みつからない。只今の時刻、6:30。
誰も居ない体育館で溜め息をついた。
思い返せば私とテツくんが付き合っているなんて不思議だ。だって、テツくんって顔は綺麗だし、普通に点数取って、バスケ部ではスタメンだし。
ある意味、そこそこ出来るイケメン。それはそれで、彼の魅力に気が付く女の子は片手で数える程しかいないが存在するのである。
しかし現実はこうだ。ちゃんと付き合ってるし、キスだってした。でも、すぐに行方不明。何とも情けない空回り彼女だ。
『はぁ…、』
私は携帯を出し素早くメールを打った。
《テツくんのばか。もう知らない》
何度も行方不明になられたのではこちらの身が持たない。ホントはテツくんとイチャイチャしたくてこんな早い時間に会っているのに、こんなの耐えられない。
『テツくんのばか、インビジブル…!!影男!!』
涙が出てきて、もう体育館には居られなくなって外へ歩きだす。
***
学校から15分程歩いたとこにあるストバスに私は居た。返信の無い携帯を握り締めベンチに座っている。
(なんで、返信くれないのっ!?そんなに私が嫌いなの!?)
未練たらたらな考えに私は泣けてきた。
「キミ、一人〜?」
あぁ、もう、お決まりのパターンだね。ナンパだよ…。
『どう見ても一人ですよ』
「いえ、二人ですね」
「え…、」
『テ、テツくん…』
ナンパ野郎の隣にはテツくんが立っている。何か、怒ってる?本当に怒りたいのは私なのに。
「人の女に手を出さないでいただけますか」
テツくんが冷たく言い放つとナンパ野郎は逆上し殴りかかる。
「うっせぇだよ!!」
「貴方の方が近所迷惑です」
ひょいっとナンパ野郎の拳を避け、腹に試合中に見るあのフォームで相手を打ち付ける。うわ、…痛そう。
ナンパ野郎がうずくまったのを決め手にテツくんは私の腕を強引に掴む。
ストバスを出て道中、私はテツくんに言い放つ。
『離してよ!!私もう、テツくんなんか知らないもん!!』
と喚けばテツくんは私を冷たくまじまじと見てくる。
「名前さん、貴女はこんな時間にこんなとこにいるのですか。危ないでしょう?」
『それはテツくんのせいでしょう!?メール見た!?』
「見てないです」
キリッと答えられる。
『テツくんのばか、大嫌い!!最低』
また、涙が溢れる。
「名前さん、す、すみません」
慌てて謝るテツくん。もう、許さないから。
『ばか…、大嫌い…、テツくんなんか知らないもん…、インビジブル…、影男!!』
「すみません、これで許してください…」
テツくんは掴んでいた腕を引っ張り、私は勢い良くテツくんの腕の中に突っ込む形になる。
『わっ…』
そして、抱きしめられ驚いて見上げればテツくんから唇にキスが降ってきた。
『むぅ…』
苦しくなってきて、酸素を求めて口を少し開いたらテツくんの舌が入ってくる。
『―――…!?』
初めての感覚に驚くと同時にテツくんは唇を離す。
「許してくれますか?」
『…………、もう、いきなり消えたりしないでね、一人にしないでね?』
「はい、わかってます」
私ってテツくんには甘いよなぁ…。
手を繋いで学校まで歩き始める。
インビジブル
(そういえば、テツくんはどうしてストバスに私が居るってわかったの?)
(体育館のトイレから出たら泣きながら名前さんが出て行くのが見えたので何事かと思って追い掛けました)
(…ばか、何よそれ)
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