■ 偽物然り、腐った知識爾り

※腹黒子さま降臨。


 皆様ご存知だろうか。
 世の中にはギャップ萌えという単語があるらしい。
 ギャップ萌えにキュンだなんて、ただの妄想だ。
 例えば、コイツとか。

「ちょっと、名前。ボクの言うことが聞けないんですか?」

『マサカ、ワタシハ、クロコクンノ…カノジョダカラ』

「そんなカタコトで言われても説得力ないんですが」

 たまたま見てしまった、彼の本性。つまるところ、本性を知られたからには黒子も黙っちゃいない。

『ソンナコトナイデスヨ』
 だから名前は脅されている。

 ボクの本性を言ったら、その目玉抉り出しますからね。それといろいろ不都合があるので、合理的かつ有利に貴女の人権を利用します。そしてボクの偽の彼女になることで許しましょう。他にボクの本性知ってるメス豚がウザいので貴女を彼女として晒してあげたなら、ボクは安泰です。

 一息でこれだけのことを名前に告げたのだ。
 むしろ後半に出て来たメス豚については、黒子の紳士的な一面とは別にあった腹黒さと歪んだ思考に惚れたということだろうか。

「あ、そうでした。貴女に今日出た課題を任せたいと思います」

『えー…、それくらい自分でやれよ』

「え?」

『喜んで、課題をやらせてください!!』

 ギャップ萌えの何が良いのやら。ロールキャベツ系男子のようなギャップ萌えなら可愛いが、腹黒暴君エゴイストだと可愛いどころか怖いだけだ。通称メス豚の気がしれない。

「あ、」

 小さく聞こえた声。黒子のその一言が怖い。実のところコイツは影が薄いなんて話はデタラメだ。
 県外まで買い物に付き合わされたときは存在感ビンビンだった。

「体操着を教室に忘れました」

 普段は笑顔なんて見せないくせに、今日に限っては天変地異が起きるのではないかと思うくらいのスマイルだった。

『…取りに行かせていただきます』

「珍しく気が利きますね。ありがとうございます」

 なぜこんな奴に振り回されなきゃならんのだろうか。

『あはは…』

「(……………)」

 仕方なく教室へ向かう。
 一方、黒子は名前の背中を見つめて、溜め息を零した。

「(………ボクもまだまだですね)」

 彼女を前にすると感情が高ぶるのだ。
 それが彼女に対する恋愛感情以前の悩みである。

「(……名前さん、すいません。でも、好きなこをいじめるのって良いですね)」

 どこまでも平行線を描く二人。
 開き直るのも最近は十八番になってしまった。

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