■ 夏の日にボクらは恋したA

 ゲームセンターの帰り道、黒子はどこからかうさぎの人形を取り出す。

『どこから盗ってきたの?』

「失礼なこと言わないで下さい。ミスディレして盗んだ訳じゃないですからね」

 眉間にシワを寄せて黒子が言った。二人並んで帰るのは久しぶりで、ゲームセンターに寄り道していく程の中である。
 別段、二人は付き合っているわけではない。幼なじみなのだ。
 全中三連覇を成し遂げ、黒子が青峰にお暇を頂いたのが数週間前の話だった。やさぐれた青峰に頭を抱えていた黒子を屋上で慰めたのが幼なじみである。
 互いに告白まがいのことを言っておきながら、全く進化しない関係。
 おかげで黒子は吹っ切れ、バスケ部を退部した。
 バスケ部を退部してしまったため、黒子は放課後が暇で仕方がない。だからか毎日のようにゲームセンターに行ったり、本屋巡りをしたり、マジバに行ったりするようになった。
 今日も変わらぬ放課後で、ゲームセンターに行った次第だ。

『でも、万引きとか普通にできそう』

 平然としているように見えるが、黒子がバスケをしたくてソワソワしているのが、私には丸分かりである。こんな和気あいあいと他愛のない話をしてはいるが二人の間には、微妙な距離があった。
 他愛のない話なのだから、恋愛ではないと私は勝手に思っている。

「そういうこと言うのは貴女くらいですよ」

 差し出された人形を私は素直に受け取り、うさぎを見つめた。

『このコ、可愛いね』

 私がうさぎの頭を撫でると黒子はふっと笑って、あげますと言った。律儀にタグは取ってあるところが黒子らしい。

「ゲーセンで取れたので」

 ボクが持っていても仕方がないと言った。私はうさぎを強く抱きしめて、黒子の手に指を絡ませた。

『…黒子だと思って大切にする』

「それじゃあボクが死んでしまったみたいですよ」

 黒子も応えるように指を絡ませる。

『だって黒子はうさぎみたいなんだもん。寂しいと死んじゃう体質がそっくりというか。…影が薄いし、』

「最後の一言余計です」

 でも、と言いかけた黒子は彼女のつむじを見るように見下ろす。自分の肩ほどの身長しかない彼女の頭を撫でた。

「好意は受け取っておきます」

『…何それ』

「寂しいと死んじゃう質というのは確かなんで。だから一緒にいてくれますよね?」

 私は黒子を見上げて頷くと、一緒にいてあげると一層指を強く絡ませた。
 きっと幼なじみだから許される関係なのだ。私はそう思っている。
 黒子は私を異性としては見ていない。私も同様。
 ただの"幼なじみ"だ。

『そのかわり私が寂しくなったら一緒にいてね』

「言われずともわかっています」

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