■ flower
「名前、花の髪飾りを持っていないか?」
恋人である真太郎がそう言ったのは日曜日の朝。突然、私の家に来て開口一番に言った。
『あるよ…。まさかとは思うけどラッキーアイテム?』
「そうなのだよ」
『またか…』
確かに真太郎は男の子だからね。持ってる方がおかしい。
「花の髪飾りをくれないか?」
『貸してじゃなくて?』
「欲しいのだよ」
私の部屋であぐらをかく真太郎は真顔で言った。和成が居たら爆笑してただろうな。
『まさか頭に付けてるの!?』
「それは無いのだよ…。バックか携帯にでも付けておけば良いと思うのだが」
頭いいね。さすが真太郎。それでも乙女った彼氏なんか嫌だぞ!
『お断りします』
「し、しかし今日のかに座は最下位なのだよっ!!俺がどうなっても良いと言うのかっ!?」
ガッと私に縋る真太郎の顔は真剣そのもの。
『ぜぇーーったい、い・や!!離せ、真太郎!!』
マジで嫌だ!真太郎を蹴り飛ばし、私は立ち上がる。携帯の電話帳を開き和成に電話した。その間に真太郎は私に足に纏わり付く。
「お願いだっ!俺はおは朝に何度も命を救われたのだよ!!名前は俺を助けてくれないのか!?」
『離せぇ!真太郎!キモいぞっ!!私は乙女った真太郎なんか嫌だあああっ』
携帯から『ちぃーす』と声が聞こえた。
「むっ!?その電話口の人物は高尾かっ!?」
『ぎゃあああっっっ!か、和成ぃ!真太郎がっ!!せ、千里眼を!』
「俺は千里眼など使えないのだよっ!!高尾の声が携帯から聞こえただけなのだよ!」
「何事っ!?つか真ちゃんが千里眼て、ぶふっ」
『へるぷ!ヘルプミィーー!!私の家に来い!和成!!真太郎が修羅場で私を振ろうとしてるっ』
「言い掛かりをつけるなっ!!」
「なぁーに?真ちゃんが修羅場?ハーレムでうはうは?」
『そうっ!ハーレムうはうは!!』
「うはうはしてないのだよっ!」
「そっか!!じゃあ俺が新しい彼氏になってあげるよ!!」
『うんっ!!そーして!!』
「させないのだよっ!」
真太郎が私から携帯を奪い通話を切る。
『あーー和成いぃ!!真太郎、何すんの!!』
「そっちが何しているのだよ!!俺が修羅場でハーレムうはうは何て有り得ないのだよっっ!!」
『携帯かえせぇ!下睫毛、全部抜いて私の下睫毛に移植するぞっ!ゴラァ!!』
「怖いこと言うな。抜いたら痛いだろう!!」
『きっさまぁぁ!!』
「貴様とはなんだ!!俺は真太郎だっ!!」
『このスリーポイント弾丸ミサイル男ぉ!!』
「失礼なのだよっ!!携帯は没収!!そして話を聞け!!」
『巨人がっ!貴様!!わらわに寄るでない!!』
「どこの女王なのだよ!話を聞けぇ!!」
長身の真太郎が屈むと私の唇に唇を押し付けた。
私は頭が停止し、真太郎が離れたと同時に本音を漏らす。
『舌、入れないのかよ』
「む?やり直すか?」
『今更恥ずかしいわっ!!ボケェ!!』
バシッと真太郎の頭を叩く。
「はぁ…、何でも良いが話を聞け…。俺はただコレと名前が持っている花飾りを交換しようと思ったのだよ…」
スポーツバックの中に手を突っ込み小さな紙の袋を取り出す。
『なによ…。それ』
多分私は今、ぶすっとした顔で言った。
真太郎が無言で中身を取り出すとレースをふんだんに使った花とフワフワのシュシュ。
「コレと…、名前の花飾りをこ、交換しようと…」
語尾が小さくなり顔を赤くしていく真太郎。キスは平気で彼女との物々交換は恥ずかしいのか、コイツ。
「だっ、だから、やるのだよっ!!」
押し付けられたシュシュを取ると、髪を横にまとめて結わえみる。
『どぉー?似合う?』
笑って見せれば真太郎は更に顔を赤くしてへなへなとその場に座り込んだ。
私はドレッサーの引き出しから花の髪飾りを出し真太郎と向き合うようにして座る。
『真太郎なら似合うよ』
真太郎の髪に花の髪飾りを付けた。
「だ、だから頭には付けないと言っているだろう…」
パッと花の髪飾りを外すと自分の携帯に付ける。
(もう、…これだからツンデレは…)
(みぃーちゃった☆)
(あ、和成)
(たっ、高尾!!貴様!!)
[ prev /
next ]