■ 疲れという言い訳

 部活帰りの黒子が名前の家にやって来るのは、いつものことである。
 別に気にしてはない。お互いに幼なじみという関係で、これといってイイ雰囲気になることもなく、ただ二人で無言の一時を過ごすのだ。
 襟に黒と赤と白のラインの入ったジャージは誠凜のデザインである。
 ジャージのまま黒子は床に座って雑誌を見ている名前の隣に座った。名前は顔を上げて黒子を不思議そうに見る。

『…珍しいね。テツが隣に座るなんて』

 いつもなら微妙な距離の場所に寝転がり、寝息をたてている黒子が隣に座ったのだ。

「気分ですよ」

 興味なさ気に言う黒子は名前の読んでいる雑誌を退かし、正座を崩した女の子座りをする名前の膝に頭を乗せた。

『ちょっと』

 何すんのと語気が強くなった名前が黒子の髪を引っ張る。汗のにおいがする黒子は知らんぷりで膝に頭を委ねた。
 名前の語気が強くなった理由は雑誌を退かされたことにあるのか、膝枕に対してなのかは分からない。

「……気分だって言ったじゃないですか。それに疲れてるんです」

 遠回しに静かにしろと言って黒子は目を閉じた。名前は黒子の髪を弄るのをやめて、白い肌に指を滑らせた。
 むにむにとした頬は少し赤みを帯びていて、名前は微笑む。しばらくして寝息が聞こえてきた。
 微妙な距離感の中の二人は、いつまでも変わらない。見た目が爽やかな黒子の性格を理解しているからこそ、名前は拒まないのだ。

『(素直じゃないなぁ。相変わらず)』

 最後にむにゅっと頬を摘んだ。すると黒子はう…と声を漏らし、眉を潜めた。
 それが、おもしろくて、何度も繰り返したのは秘密だ。

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