■ 6秒
ピチチとさえずりが聞こえた。名前は顔に纏わり付く、ボサボサの髪の毛を払いながら起き上がった。
カーテンの向こうの明るさが名前に朝が来たと確信させる。
『・・・・ぐっもーにん』
名前の上で寝ている黒子の髪の毛を摘んでみた。はっきり言うと重い。
昨夜はアーッな展開に至らなかったものの、酔った黒子に押し倒されて、そのあとが大変だったのだ。
回想をしよう。
名前を押し倒した黒子はそのまま首筋にキスを落とした。
いくら酔っているからといって恥ずかしいものは仕方ない。名前は黒子の胸板を押し返すようにして否定を表した。
すると黒子は涙目になりながら、呂律がまわらない敬語で名前を攻め立てた。
「ひどいれす!ひていするんれふか!?ぼくは、どうしても・・・、つづきが、したいんれすよ!!おねがいれふ!・・・・・というか、主導権はボクのものですよ。分かったらボクに大人しく抱かれてください。紳士みたいだとか馬鹿みたいです。だいたい名前のエロい姿見て、紳士でいられるほうがおかしいでしょう」
矛盾と、突然呂律が直り、服を脱がそうとする黒子に唖然とした。
しかし服を脱がそうとする指先は覚束ない動きで、なかなか進まない。おそらく先のステップを踏むことはないだろう。
以上が名前の回想だ。
あのあと黒子が倒れ込むようにして寝てしまったために、名前は下敷きになったまま朝を迎えたのだ。
『テーツーヤー。おーもーいー』
せっかくのドレスがシワになっただろうなと思いながら、黒子の髪の毛を強く引っ張る。
しかし黒子は名前の胸元に顔を埋めたままスースーと寝息をたてるばかりである。
名前は諦めて受け入れるように黒子の頭を抱きしめた。小さく呻く黒子に愛しさを感じ、二度寝を決意した。
∝∝∝
「起きんかあああぁぁぁああッ!!」
バンッと寝室に入って来たのはリコだった。
黒子は驚いてパッと起き上がる。
「か、カントク!?」
「黒子くん!携帯くらい傍に置いときなさいよ!!」
リコの腕の中には最愛のタツヤがいた。黒子似で真ん丸な目と水色の瞳が特徴的である。
タツヤは大きな瞳に涙を溜めて、リコの怒鳴り声に静かに泣き出す。
「ふっ、え・・・、うぅ」
物静かな所まで似てきたのか、タツヤは泣き叫ぶまでは至らなかった。
しかし泣いていることには変わりはない。
リコは慌ててよしよしとタツヤを宥める。
「ごめんね、驚いたね〜。ダメパパのせいで」
「ボクのせいですか!?」
「しかもパパはママを組み敷いているというか寝込みを襲っているの〜」
そこで初めて黒子は名前を押し倒したような体勢であることに気がつき、慌ててベッドから飛び出した。
「ひ、人聞きが悪いです!!」
「本当のことを言ったまでよ」
オホホと高笑いをするリコからタツヤを奪うと、今度は黒子が宥める。
「まぁ、楽しんだのなら良かったわ。私はこのあと日向くんと鉄平に会いに行くから」
ご機嫌で出て行ったリコを見送り、ため息をつく。一体どこから侵入したのだろう。
まるで台風が過ぎた後のようだった。黒子はタツヤを抱いてベッドに座る。
「(頭が・・・)」
今更襲う二日酔いに頭を抱えた。タツヤがしょげた顔で黒子を見上げている。
「ぱぁぱ」
「!」
タツヤが心配そうに黒子を"パパ"と呼んだ。
初めて、なん語を話した息子に黒子は目を見開く。
「ぱぁー、ぱ」
「〜〜〜〜〜っ!はい、パパですよ」
黒子が高い高いをする。内心は女の子もほしいという邪心のようなものも芽生えはじめていた。
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