■ 2秒

 名前が電車に酔うのは毎度のことである。黒子の膝には青い顔をした名前がぐったりと頭を乗せて狭い座席に横たわっていた。
 一方、息子であるタツヤ。名前はテツヤのテをタに入れ替えただけである。氷室が火神と遊びに来た日に、同じ名前だとなぜだか喜んでいた。タツヤが黒子の腕の中で、あーとかうーと言いながら、膝枕をしてもらっている名前の長い髪を引っ張っている。

『たーちゃん、お母さん、ゲロ吐きそう…。うぇぇ…、テツの膝の上に吐いちゃう…』

「汚いです。やめてください」

 何故酔い止めを飲まなかったのかと黒子は本日二度目の呆れ顔を見せた。
 名前曰く、買い忘れであるという。普段買わないものは思考から抜けやすい。

『…………もうやだ』

「結婚前もこんなことありましたよね」

『………………』

「ボクが名前の両親に挨拶に行った際に」

『言わないで』

 名前が顔を手で覆って泣きまねをする。
 黒子はクスクスと笑ってタツヤを抱き直した。





∝∝∝∝






 黒子一家が向かったのは海だった。季節としては早いせいか、人はあまりいない。
 しかし日差しは健在で、黒子がセットしたパラソルの影に名前は、敷物を敷いて座っていた。
 波打ち際で黒子とタツヤが遊んでいる。何だか黒子と幼い黒子が遊んでいるようで不思議な気分だった。

『(…………タツヤがうらやましいなぁ)』

 息子に嫉妬する自分は末期なのかもしれないと思いつつ、心で録画をしている名前にはヘヴンである。
 それにしても、黒子との時間が減った気がする。仕方ないのは分かっているが、我が儘なんて言えなかった。

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