■ 15秒
わーい!、ゴリラー!、などと子供に罵られる岡村に誰一人として助け舟を出すことは無かった。それは後に現れた劉のせいである。動物園から野生のゴリラを連れてきたアルー!と岡村を紹してしまったからである。
黒子と宮地が氷室に教わりながら、一通りきりたんぽの作り方を習う。後で子供達の前で実演しながら作ることになっているからだ。
「それにしても子供達は元気だね。敦も連れてこれば良かったよ」
「紫原くんを?」
そしたらケーキとか持ってこれたのにと笑う氷室に宮地がすかさず、これだけでも充分ありがたいと言った。
囲炉裏があるわけではないのでコンロで直接炙っている黒子はただその様子を眺めている。向こうからは岡村の悲鳴と劉と子供達の笑い声が聞こえていた。
きりたんぽをご馳走してもらい、ご機嫌でお昼寝をする子供に黒子はため息をついた。あとは彼らの親を待つばかりである。
黒子のエプロンを握ったまま寝ているのは愛しい息子と青峰兄妹。なんでも、青峰たちとバスケをしないできりたんぽを炙っていた罰だから親が来るまでここにいろと言われてしまったのだ。
子供特有のむちむちのほっぺをつつきながら、夢の中の彼らを見守る。帰ったら名前と何をしよう。何をするだなんて今まで考えたことなど無かったけれど、結婚後には旅行だって行ったし、たくさんデートもした。子供ができてからはお互い忙しくなり、なかなか二人きりになる機会がなかった。
ちなみに言うと名前に抱っこされているタツヤが羨ましく思うこともあれば、恨めしいときもある。不純だろうが何だろうが考えてしまうものは仕方が無い。
帰宅した頃にはタツヤと名前が一緒に夕飯を作っていた。黒子が退社する数時間前に名前によって家に連れ帰ったタツヤは無表情で鍋の中を覗き込み、時折おたまで中をかき回す。
しかしキッチンから黒子の姿を見つけると、おかえりなさいと小さな手を振ってくれた。名前もおかえりなさいとニンジンを切りながら微笑んだ。
「ただいま」
黒子が言うと一家の団らんのひと時が始まった。食卓にご飯が並ぶ。タツヤが味噌汁のお椀を一つ両手で持って慎重に歩いている。
黒子はその様子をじっと見ていた。そしてしゃがむとタツヤにお願いごとをした。
「タツヤ、パパにそのお味噌汁をください」
「……ぱぁぱ…、ちょっとまっててくらさいね」
向こうで名前が携帯を片手に動画を撮る音がした。少しずつ、こぼさないように歩いてくるタツヤからお味噌汁を受け取った。
「ありがとうございます。タツヤはいい子ですね」
「もっとバスケ、教えてくれたら…もっといい子になります」
黒子が目を点にしていると、名前が向こうで鼻血を垂らしそうな勢いでビデオカメラを構えた。
「バスケを教えないといい子になってくれないんですか?」
「当たり前れす」
黒子がお味噌汁をテーブルに置くと、タツヤを抱き上げた。そして高い高いをすると、またストバスに行きましょうねと言う。
『そうと決まればバスケのゴールを買いに行こうよ。あと、アメリカに行きたい!!」
ゴールポストから突然話が飛躍したが、名前はビデオカメラと携帯を握りしめたまま提案をした。
黒子はアメリカはちょっと…と言い淀むがゴールポストは前回のストバスから考えていたことだ。
「アメリカは無理ですけど、ゴールポストについては賛成です」
カントクのところにでも通わせようかと黒子が冗談を言ったつもりが、名前は名案だとはしゃぎ、タツヤをバスケ選手にするんだと笑った。
タツヤもそれにはうんうんと頷いている。その目はもっとバスケがしたいと語っているようだ。
「なんだか凄い話になってしまいましたね」
名前はタツヤの頭を撫で回す。黒子の腕の中でシュートのモーションをして見せる息子を何度も褒め称えた。
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