■ 12秒
名前が家に帰ると、色とりどりの頭が食卓を囲んでいた。
パティシエの紫原が軽いお菓子を作っているのが対面式キッチンから見えた。
その隣には赤司が立っている。
『ただいま…。なんか今日はカラフルだね』
名前が驚き半分でリビングを眺めた。黒子がタツヤを膝に乗せて、おかえりなさいと言う。
キャラの濃い面子が揃っているため、名前の存在は空気になるだろう。
名前は黒子の膝の上のタツヤの頭を撫でて、キッチンに立つ。
『久しぶりね。赤司くん』
「やぁ、名前。元気そうで何よりだ」
赤司が手慣れた手つきで鍋を作っているのが見て取れた。
隣からは生クリームの甘い香りがする。
『赤司くん、東京に帰ってたんだね』
「あぁ、昨日から。皆集まって男デートをしようと思って、テツヤの所を訪ねようとしたらストバスで会ってね」
男デートとやらが何なのか名前には理解できなかったが、鍋敷きをもってカラフルな連中が囲む机に置いた。
タツヤと黒子の丸い目が名前を追いかけている。
『赤司くん』
「なんだい?」
赤司が耐熱手袋を両手にはめて、鍋を運んできた。
鍋敷きの上に置くと、蓋を開けようとする青峰と黄瀬の手をレンゲで容赦無く殴りつける。
タツヤの視線が赤司の凶器のレンゲに移る。
『……なんでもない』
黒子の瞳には名前しか写っていなかった。
***
真夜中、名前は布団を掛けられる感触で目が覚めた。
鍋を食べ、馬鹿騒ぎをしていた彼等に便乗した結果がこれだ。
「あ…、起きちゃいました?」
黒子が言うと、名前は目を丸くして黙りこくった。
「名前、タツヤは部屋に寝かせていますから」
黒子が名前の頬に手を伸ばし、撫でる。視線を逸らした名前が気に入らないのか乱暴に顎を掴むと、黒子の方を見ろと無言で言われた。
床に寝転がる名前の上に乗り上げる黒子は上半身を折って体を密着させる。
そして口づけた。名前は突然のことに眠気も吹っ飛び、小さく抵抗をした。
それも黒子は気に入らない。荒々しく唇を舐めて吸い上げた。
ちゅうっと音がし、名前の頬が色づく。
唇をキュッと柔らかく黒子が噛んだ。そして侵入をした。
名前の目からは寝起きの涙が零れている。
くちゅっと荒々しさを増すキスは深い。名前は黒子にたまらず縋り付いた。
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