■ 10秒

 名前はしばらく練習の様子を見ていたが、黒子のことが気になり、休憩しに戻った氷室に一言交わして家に戻った。
 二日酔いで潰れている黒子が寝ているベッドに潜り込んで抱きしめる。
 目が覚めることは無いものの、人肌が気持ちいのか、対して否定する様子はない。
 あやすように頭を撫でながら、名前が目をつむった。そしてこっそり、黒子の唇に触れる。
 男性にしては柔らかい唇かもしれない。黒子は何だか男性というより美麗という感じかもしれない。
 頬もむにむにいじると、眉間にシワを寄せる黒子が可愛らしかった。

「あの…、」

 突然、黒子の目がパチリと開く。少し驚いたが、名前は気に留めることもなく、なに?と返事をした。

「やめてください」

『なんで?』

 黒子が困った顔で、名前を見つめる。
 黒子は弱っているせいか、いつもの達者な口はなかなか動かなかった。

『たまには弱ってるテツヤも良いね。休みの前日には酒を飲ませとこうか?』

 意地悪く笑う名前に黒子は、ムッとする。

「もう酒は懲り懲りですよ」

 黒子が名前の後頭部を押さえて、抱き寄せる。
 額から瞼にかけてキスをする。頬を舐め、鼻にキスをし、唇に到達した。
 名前はされるがままに、身を任せる。
 唇を食む感覚が何度か続いた。

「名前、舌を出して…」

 低い囁きが名前に届いて、素直に受け入れる。
 舌が絡み合い、名前は頬を熱く赤くさせた。ちゅうっと音がして、黒子がやっと離れる。

『なんだか意地悪いキスだった』

「そうですか?」

 何だかんだ、元気そうな黒子に軽くパンチして目を閉じた。

『明日から仕事だよ…』

「ボクは明日は非番です。タツヤは保育園を休ませてバスケでもしに行きます」

『ホント、バスケ馬鹿だねぇ』

 そんな会話を最後に、二人は睡魔に溺れた。



***



 昼過ぎになって氷室と火神が帰ってきた。火神の腕の中で疲れきって寝ているタツヤを爆睡する黒子の横に寝かせ、リビングに戻る。

『二人とも、ありがとう』

「いやいや、こっちも久しぶりにバスケしたからよ」

「最近は洋画の翻訳ばかりだったから良い運動になったよ」

 消防士の火神と翻訳を生業にしている氷室は、すっかりバスケに再熱していた。

「俺さ思ったんだけどよ、黒タツはミニバスを始めたら良いと思うんだわ」

『ほんと?てか黒タツって何』

「いや、タツヤと混ざるから黒子んとこのタツヤは黒タツって呼んでんだよ」

 ストバスで火神がタツヤと呼ぶと、両方が振り向くからと呆れ顔で言った。
 氷室は仕方ないと言うように困った顔をしている。

『なるほどね。氷室さんと混ざっちゃうのか』

 コーヒーを出しながら、名前が笑うと氷室も苦笑いをした。

「あ、そういえばタイガの高校の時のカントクさんにタツヤを見てもらったらどうかな?」

 氷室の提案に、コーヒーを飲むのをやめた名前は、火神と顔を見合わせた。

「タツヤくんは黒子くんみたいにミスディレクションが出来るかもしれない」

『うん?』

「そうだな。チビだからなのかはわかんねぇけど見失うし」

『ほう…………?』

「だよね。このまま練習していくと良い選手になる。黒子くん自体が異様だったからね。シックスマンになりうるかも」

『……………』

 話についていけなくなった名前は山盛りの砂糖をコーヒーに投下する。
 しかし氷室と火神の会話はまだ続く。

「やっぱ本場に行ってストバスやるべきじゃねぇか?」

「それはナイスアイディアだね、タイガ。ミニバスだけじゃ勿体ない」

「やっぱお前もそう思うだろ?」

『え!?聞いてなかったというか話が分からなかった』

 名前が溶けきれずにテンコ盛りになった砂糖の山を無理矢理掻き混ぜながら、答えた。

「うーんとね、アメリカでストバスをさせたいなって話」

 氷室がコーヒーを一口飲んで簡単に説明してくれた。

『いくらなんでも無茶だよ。アメリカなんて。だいたいストバスだって勝手にテツヤが連れてくし、ミニバスも習わなくたって赤司くんが何かとカラフルな集団を連れて教えに来てくれるから』

 別にいいんじゃない?と名前が言う。
 火神が成る程なとコーヒーを啜る。氷室も頷いた。

「これだけバスケバカがいたらタツヤくんは一体どんな選手になるんだろうね…」

『本場のバスケを知ってる火神くんと氷室さん、キセキの世代と呼ばれていた皆…。将来が恐ろしい』

 まさか厨二病にまで発展してしまうのだろうか。
 赤司がいれば避けられない気がする。
 火神と氷室はコーヒーを啜りながら、オヤコロ最盛期を思い出す。あの高校一年生だったときのウィンターカップ。
 火神は随分な目に遭ったが、名前はそれを知らない。
 タツヤがどんな選手になるかは予測不能である。

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