■ 9秒

 黒子が家で休養中の中、名前、タツヤ、火神、氷室の四人はストバスに来ていた。

「おー!懐かしいなっ」

「そうだな。ストバスの大会以来じゃないかな。タイガとここでバスケをするのは」

 思い出話をする二人を名前は羨ましく感じた。
 高卒をしてから、大学へ通うために上京してきた名前にとっては知らない話で、バスケ絡みならば黒子も一緒に違いない。
 火神が日本へ帰国したのは高校のときらしいから、黒子といたのはほぼ確実だろう。

『・・・・・・』

 タツヤと手を繋いだきり、名前は複雑な気持ちで二人を見ていた。
 せっかくの非番の火神が、わざわざメール一つでバスケを教えに来てくれた。
 しかも氷室までタツヤに会いに行きてくれたのだ。
 なのに、名前には自分が知らない二人を見ているようで、何だか寂しかった。
 話には決して入れない。タツヤの小さな手を握りしめた。
 タツヤは自らの母親を見上げると、困った顔をする。
 名前はそんなことも知らずに、無表情で彼らを眺めていた。

「・・・・むぅ」

 唐突にタツヤが頬を膨らませ、名前の手を振り払うと、覚束ない二足歩行で二人の元へ歩み寄った。
 顔はむくれていて、怒っているようにみえる。

「らまってくらさいッ!!」

 幼い声がストバス中に響き、足元のボールを拾い上げると思い切り殴り上げた。
 真上に飛んだボールは火神の顎にヒットし、跳ね返って氷室にも命中した。

『タ、タツヤ!?』

「まぁま、きたら、らめれす!!ボクがやっつけるのれ」

 可愛らしい敬語とは裏腹にタツヤは転がってきたボールを再び拾い、また殴った。
 そのまま氷室の鳩尾に入り、タツヤは火神を睨み上げる。

「ひっ!?おまッ、イグナイトパスできんのかよ!?」

 氷室が腹を守るように、しゃがみ込み呟いた。

「さすが黒子くんの子供だね・・・」

「うるしゃいれす!ボクはまぁまを、なかまはずれにしたくないらけれすから!!」

 キョトンとする二人と顔を見合わせ、名前は照れたように笑った。

『あはは、タツヤには敵わないなぁ。私ね、二人が羨ましく思ってたから』

 タツヤにはバレバレだったみたいと言ってベンチに移動する。

「羨ましいって何がだよ?」

『うーん、いろいろ』

 曖昧にぼかすとタツヤを手招きして呼び寄せた。
 黒とライトブルーのリストバンドを付けさせると、小さな体を抱きしめた。


「・・・・その、悪かったな」

『ううん、気にしないで』

 タツヤを離すと、背中をとトンッと押した。

『ほら、二人にバスケを伝授してもらってきなさい』


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