■ もういいかい?


 黄瀬くんの夢を見た。二人で手を繋いで幸せそうに歩く私と黄瀬くんを。
 あ、私黄瀬くんのこと諦め切れてないんだ…。でもテッちゃんも大好き。心の底から愛してる。でも黄瀬くんも愛してる。なんだろう?この気持ち。
 朝の教室でテッちゃんと向かい合って座る。そんな所に黄瀬くんがやって来た。
テッちゃんが顔をしかめる。
「名前っち、俺諦めないっス」

『え?』

「黄瀬くんは人の女を盗る気ですか」

 人を殺せそうな目でテッちゃんは黄瀬くんを見る。

「そのつもりっスよ」

『ふ…、二人ともっ!!』

「名前さんは黙っててください」

「そうっスよ!!」

 ギリリッと睨み合う彼ら。

『えと…、ごめんなさい』

 あまりのことに私は怖くなって席を立った。二人にあんな風に怒鳴られたことがなかったから胸が騒がしい。
 教室を出たは良いが、行く場所がない。サボれるほどの度胸はないからチャイムギリギリに戻って来ようかと思っていた。
 他クラスの友達のとこへ遊びに行くのである。






***






「名前さん、朝は怒鳴ってすみませんでした」

 昼休みにテッちゃんが謝る。私はそれに罪悪感を覚えた。教室内では黄瀬くんの黒子くんへの宣戦布告の話で持ち切りで私は一気に肩身が狭くなってしまった。

『テッちゃんは悪くないよ。黄瀬くんだって悪ふざけだったのかもだし』

 テッちゃんが目を見開き悔しそうな顔をして俯き下唇をギュッと噛み締めるのがわかる。

「そんな軽い話じゃないです」

 ボソリと言われた。私は怖くてたまらなかった。だからか逃げたかった。幸せな時間が愛おしく感じるくらいに遠くへ来てしまったようだった。

『テッちゃん、ごめん。私、今日は友達と食べるから』

 スクールバックを掴みテッちゃんの横を通り過ぎた。
 教室の入口で黄瀬くんに鉢合わせたが軽く会釈をしてその場を去る。





***






 名前さんが去った教室はボクにとっては無意味だ。完璧に嫌われた気がする。でも愛されてる気もする。
 背後が急にざわめき振り返ればフラフラと黄瀬くんが入ってきた。

「俺って名前っちに嫌われてるんスか?」

 情けない顔で言う。

「普通ライバルにそんなこと聞きますか…」

 嫌われたかどうかはボクだって聞きたいくらいだ。
「そうっスよね」

 互いが情けなくなり肩を落とす。

「しかし名前さんを見つけるのはいつだってボクです!!」

「はぁ!?何言ってんスか!!」

 黄瀬くんと言い合いを始めてから先生が来るまで名前さんは戻ってこなかった。
 午後からの授業は何だか身に入らなくてぼーっとしているボクに手紙が来た。
 Toテッちゃんへ From名前と書かれており胸が高鳴る。まるで名前さんに告白した日のやり取りのように。
 先生に見つかるわけ無いが隠すように手紙を広げた。水色のカラーペンで書かれた文字。


 別れよう。ごめんね。私、テッちゃんが好きだよ。決心がつくまで待っててほしいの。


 ボクはそっと俯き授業中だというのに席を立った。誰も気づくことはなかった。しかし名前さんだけは振り向いた。鷲の眼の効果だろうか。
 ボクはそんな元カノに微笑んだ。

「(言えるわけ…ないです)」

 教室を去った。誰も僕に気づくことはなかった。






***






 午後の授業で廊下を歩く黒子っちを見かけた。隣のクラスから出て来たと思われた。

「…………せんせー、トイレ行ってくるっス!」

「黄瀬、昼休みにいっとけよ!!」

 ドッと笑いが溢れ俺は教室を出ようとした。

「あ、長便になるかもっス」

 と言い残して出た。
 水色の頭が廊下をひたひたと歩いていく。俺もひたひたと足音をたてないように追いかけた。
 向かった先は屋上。

「黄瀬くん、」

「あ、気づいてたんスか」

「当たり前です」

 黒子っちはポケットから紙を取り出して差し出す。
 黄色のカラーペンで書かれた文字は追記と書かれていた。

「なんスか」

 紙を受け取るとTo黄瀬くんへ From名前の文字。

「奇声をあげたら殺します。それ黙って読んでください」

 物凄い顔で言う黒子っち。

「………はい」

 まるで教育係と新人の俺の時の会話のようだ。
 紙を広げると黄色のカラーペンの文字が広がる。黒子っちの様子からして何故か勝ったと思い込んでいた心は沈む。

 黄瀬くん、ごめんね。私、わからないよ。フラれた人に何故告白されたのか。黄瀬くんの気持ちを弄ぶようなことをしてごめんなさい。

 宣戦布告をして数時間でフラれた。

「…過去最高速っスよ。こんなの」

 黒子っちが驚いた顔をする。名前っちからの手紙を黒子っちに突き返し屋上を出た。






***






 放課後、黒子が珍しく部活をサボるようになった。
 黄瀬は黙々と練習をする。そんな日々を過ごし、三年になる。名前がその後二人と会うことが無くなってしまったのだ。
 黒子と同じクラスなのに会えないのは他でもない名前が不登校になったからである。
 黒子は今日もメールを送る。デコレーション機能で水色の文字で書かれた文面。
 今日から冬休みです。ボクはいつまでも君を待ってます。






***






 黒子からのメールを見て名前は無表情になる。
 消しカスだらけの机には参考書と転校手続きの紙が置かれていた。






 あれから一年と半年。私は二人からかくれんぼした。








高校編に続く…

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