■ 今更


 後々、後悔した。本当は好きな子なんていない。
 以前、黒子がバスケ部にある少女を連れてきたのが出会いだった。
 二人はテストの問題を学年首位である赤司に聞きに来たようだった。
 着飾ることもなく、ただ平然とした名前。そんな名前に黄瀬は惚れたのだ。しかし自分はモデル。バスケだって出来る。完璧なのだから名前とは釣り合わない。いつだって見下ろしていた。
 名前と仲良くなろうが、黄瀬が名前呼びしようが彼女は変わらなかった。だから告白されたときは嬉しかったのに、落とせたと思った。でも腑に落ちない。
 腹がたったと言うのもあるが、大半は悔しさから名前をフッたのだから、黒子と歩く名前を見たら黄瀬は嫉妬感に溺れてしまう。
 もやもやする気持ちでバスケをするといつの間にか、練習を見に来た名前に目が行ってしまう。
 別にエゴイストでは無いつもりだが、後悔しているのには変わりはない。
いつしか黒子が名前を守るようになって黄瀬はもやもやした気持ちを倍増させた。
 あの時フッていなければ名前の隣は自分のものだったのだろうか?

 そんなある日の昼休み。
 名前が珍しく一人でいた。どうしても言わなきゃ気が済まなかった。
「ホントは名前さんのことスキなんス」
 物影からの視線に気づけば黄瀬は少し躊躇してしまう。きっと黒子。あるいはついて来たファンあたりか。
『ありがとう。でも、私テッちゃんに溺愛してるから』
 微笑む名前は気がついているのだろうか。
「ごめん。今更。でも名前さんと黒子っちが付き合いはじめて名前さんが好きなんだって、気がついたっス」
 物影の視線が強張った。決定打である。まさしく黒子だ。
『ありがとう。でも私はテッちゃんじゃないとイヤなんだ。ごめんなさい』
 そう言って逃げるように去って行った。
 気がつけば黄瀬は一人で、黒子の視線も消えていた。
(もう、付け込む隙もないんスね…)
 本当に釣り合わなかったのは自分の方だと黄瀬は自覚した。






***






「名前さん。ありがとうございます」
 放課後になって名前にお礼を言う黒子。
 名前には何のことかが分からなかった。つまり、昼休みの黒子の視線に気がつかなかったのだ。
 気がついたのは黄瀬だけということだ。
『何のこと?』
 黒子からすれば安堵の溜め息が出る。それに勘違いする名前が騒ぐ。
「やっぱり君が1番ですね」
『え?浮気しそうになったの?私、2番になりかけたの!?』
「あ、いえ。いろいろあったんです」

 納得していないのか名前がむくれる。
『意味、…わかんないよ』
「名前さん、……好きです」
『当たり前でしょ』
 名前が黒子の手を取り制服のジャケットからカイロを取り出し黒子の手を温めた。
「肉まんなら奢ります。お金ないですけど」
『なに?唐突に。肉まんは二つがいい』
 黒子が意地悪く笑って『一人一個です』と言う。
「いえ二人一個がいいです。ボク的に」
『テッちゃんも男だねぇ』
「女ではないですよ。確実に」
『女って言われたらテッちゃんは女装するべきだよ』
 暗い歩道に街頭で照らされた二人の影が落ち、コンビニへ入って行った。

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