■ 一生


 名前から来た手紙を広げてみる。ピンクの可愛らしい文字が"1限目サボれそう?ゆっくり話しがしたいの"と書かれていた。
 黒子に断る理由もない。授業をサボったことは無いが1限目は国語。問題無い。余裕だと思った。






***






『黒子くん。よかったの?サボりとか。ってきり断るかと思ったよ』

「むさ苦しい男なら断りました。というより苗字さんだから来たんです」

 黒子は少し微笑みながら屋上の隅に座った。

『ふうん。意外と私にも魅力があるってことだよね?うん。そう信じて止まない私はナニ?』

「そう信じて良いと思います」

 名前は膝より2cm程短いスカートを目一杯に伸ばして体育座りをする。隣には黒子が居る。

『秋だねぇ。黒子くん』

「渋いこと言いますね…。でも少し肌寒いです」

 ジャケットの袖を伸ばして手を隠す黒子を見て名前も真似をするが思うように手を隠せない。

『む…、ジャケットの袖、短くしてあったんだ』

「寒いですか?」

 心配して声をかけてくれた黒子はポケットをゴソゴソと漁る。

『少し…』

「ならカイロをあげます」

 と言って出されたカイロを受け取ると名前は握りしめて礼を小さく言った。

 天気は曇天。五月雨前線が近いのかいつ降り出してもおかしくなかった。

『黒子くん。手紙のこと…ホント?』

「はい」

 冗談は苦手ですからと言った黒子はズボンのポケットに手を突っ込むと真剣な顔付きになる。

『そっか。ありがとう。それとさ何で私が黄瀬くんにフラれたこと知ってたの?』

「苗字さんが前髪を少し切ったからです」

『マジか。てか気づいてたんだね』

 まさかすぎる発言に名前は驚き黒子は当たり前といった表情である。

「そりゃあ気づきますよ。それもありますが、実は昨日…」

 名前は察した。

『たまたま…、見ちゃったんでしょ?』

「やっぱり気づかれてました?」

 困ったような顔で黒子は言う。

『全然。でもそこまで言われたら察しがつくというかね』

「すみません…」

 黒子は俯くのに対し名前は空を仰ぐ。

『ううん。なんかスッキリした。ありがとう』

「ボクは少し安心してたんです」

『え?』

「苗字さんが黄瀬くんにフラれるのを見て…。とても最低です」

 名前はそんなことない、と言いかけたが黒子は遮るように続ける。

「それくらいに、苗字さんが好きなんです」

 唐突に黙りこくる黒子に名前はオロオロとするが少しして落ち着く。

『黒子くんって優しいよね。黒子くんがさあの手紙をくれるまでは昨日の出来事がまるで何年も前の話しのようで、自分の心臓の位置だって人と違う感じがしてて、……とても辛かったんだ』

「………………」

『こうやって黙って話しを聞いてくれてさ、今とても嬉しいよ。私さ、解らなくなってたんだ。本当に黄瀬くんが好きなのかなって。朝の時間に無彩色な風景に色がついたのは黒子くんのおかげだよ。ありがとう』

「それは返事としてみてもいいんですか?」

 黒子の悲しそうな表情が名前を捕らえた。

『もちろん。だから、……付き合ってください』

 手を差し出すと黒子はポケットから手を出して名前の手を握る。カイロを片方の手で当てると黒子の冷えた指先がピクリと動いた。

「好きです。名前さん」
 
 そう言って二人で唇を合わせた。
 初めての名前呼びと初キスに名前は心を奪われるかのように黒子を好きになった。きっとそうなのだと言い聞かせる。



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