■ 大好きでいるよ。


 賑やかな人混みの中を俺は掻き分けて他目的室へ向かった。
 またもや同時送信されたメール。
 "部活の仮入部前に他目的室に移動。もし会えなかったらごめんなさい。でも、会えなくても、また友達でいたいです"
 黒子もそのメールを見て急いで他目的室に行っているのだろうか。誠凜と海常、場所は違えどそれぞれ他目的室はある。
 ガラッと俺は他目的室を開けた。


 たゆたう黒髪は夕方のオレンジに染まり、あの大きな目でこちらを見た。
 ふわりと揺れる海常の制服は"想像"の中では似合っていた。
ガラリとした教室には彼女の姿は無く、俺が一人いるだけだった。


「フラれたんだ…。俺…」

 机の上に置かれた手紙には黄瀬くんへと書かれていた。あの時とは違う。ノートの切れ端なんかじゃなくて、ちゃんとした封筒だった。
 "黄瀬くん。ありがとう。
嬉しかったよ。今日、黄瀬くんから、かくれんぼしました。
こんなこと言える立場ではないけど私の一番の友達でいてくれませんか?手紙の返信、待ってます"
 短い文だが、何度も書いては消しての繰り返しが見える。
 俺は手紙をポケットにしまって少し笑ってしまった。すぐにメール画面を開いて宣戦布告をあの時のようにしてみる。

 "また、黒子っちから名前っちを奪ってみせるっス。でも、それまでは俺たちは友達っスからね!!何か黒子っちにイジメられたら言うんスよ"

 他目的室から出た。さて、バスケ部に行ってこようか。俺はバスケ部の勧誘で推薦を受けて海常に進学した。だから仮入部じゃなくて本入部だ。






***






 走って、走ってひたすら走った。他目的室のドアをバンッと開けると、中には誰もいなかった。

「…………」

 あれ?ボク、フラれたんでしょうか?

「…はぁ。やっぱりモデルには叶いませんね」

 仮入部に行こうと引き換えした。途端にお腹に軽い衝撃があって黒子は、わっと一言漏らして固まる。

『わわっ』

 尻餅をつく女の子に黒子は釘付けになった。

「………名前さん!?」

 痛そうにお尻をさする名前は涙目で言った。

『テッちゃん、走るの速すぎ』

 ぷぅとむくれる彼女は紛れも無い名前。
 黒子は思わずしゃがんで名前を抱きしめた。

「名前さん!!ボク、フラれたかと…」

 名前は一瞬驚いたような顔で黒子の肩に頬ゆ乗せていたが、少しずつ唇が弧を描く。

『やっぱり、恋人はテッちゃんじゃなきゃ。黄瀬くんはやっぱり友達だよ』

 夕方に照らされボクらは抱きしめあった。三日前まで冷たかった彼女は今、ボクの腕の中。
 ぶつかった時に落とした名前の携帯がヴヴヴヴ…と鳴る。ディスプレイには黄瀬くんと書かれていた。
 この後、黄瀬くんからのメールを見てボクは憤慨するのであった。






***






 中二の初夏に恋をして、フラれました。見事なまでに。夕方に壊れた自転車を押して帰ったのを覚えています。
 次の日からは無彩色だった私の世界を塗り替えたのは紛れも無い、キミでした。
 そんなキミに宣戦布告があって、せめぎあう心が、ひび割れしました。
 だから二人から一年と半年も"かくれんぼ"したんだ。毎日が怖かった。キミからのメールが嘘なのか本当なのかを見極めるのに時間がかかった私を許してね。
 でも"かくれんぼ"はもう終わり。



 私の初恋は黄瀬くんで、私の二度目の恋はテッちゃんでした。






水色ゲノム....end

*あとがき*

こんばんは。管理人の時雨 麗羅です。ついに水色ゲノム、完結ですね。
本当に長くもなく短くもなく、微妙なラインを突っ走って来ました(笑)
水色ゲノムは『橙ゲノム』という曲をモチーフにしています。
ピアノとポップチューンドラムが可愛らしい曲です。
片思いしている人に片思いをする主人公の曲で最後は主人公は片思いを諦めてしまうという内容です。

今回、水色ゲノムの最後には何パターンかありました。黒子オチのパターン、黄瀬がやっぱり忘れられないパターン、どちらの前にも現れないパターンなど…。
まぁ結局、悩んだあげく橙ゲノムパロ+αで連載をすることにしました。
トップのQUESTION!!にて水色ゲノムの感想や更新催促をしてくださった方に感謝しています。
QUESTION!!でのRes.はしておりませんが、大分前から連載している長編より、恐らく人気がありました。
ここまで読んでくださった名前さま、応援してくださった方に心から感謝いたします。
何かリクエスト、感想があれば、拍手またはMailからお願いします。

時雨 麗羅


修正2013.05.28

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