■ 愛してます。

 私は春休み最後のバスケの練習にストバスに来ていた。
 オープンハイスクールでたまたま知り合いになった森山サンがバスケ部だと聞いたとき見学チームを抜けて笠松サンに無理矢理会わせていただいた。
 加えて近所に住む日向兄が誠凜高校でバスケ部の主将だというのだから二人に教えて貰えば、少しはバスケが出来るのではないかと思ったのだ。

『テッちゃんと黄瀬くん…?』

 練習が終わって、帰ろうと振り返れば二人がいた。

「お久しぶりです」

「名前っち…、」

『ひ、久しぶり…』

 思わず後ずさる。

「元気そ「名前っちいいいいいいぃぃ!!」

 バッと飛び掛かる黄瀬に名前は青ざめたあと、ハッと何かを思いつく。
  

『き、黄瀬くん!!おすわり!!!』

 ピタッと黄瀬の動きが止まりヘタンと座る。

「名前っちいいぃぃ…」

 見てない、見てないよ、私は犬の黄瀬くん何か見てないよ。

「黄瀬くん」

 ガッと土足で黄瀬の後頭部を踏み付けるテッちゃんは不機嫌そのものだ。

「………………ゆ、許してっス。抜け駆けするつ『じゃあねっ』

 あ、っと二人の声が聞こえたが知らないフリをして私は逃げた。逃げ足なら自信がある。






***






 家まで走ってきた。ゼェゼェと息が上がり暑かった。
 温暖化が進んだせいか例年より早く雪が溶けている。少し暖かいような肌寒いような気候が続いている。

『はぁ…。ビックリした』

 ボールを撫でて倉庫に入れる。一年前に買ったボールで練習する際に使っていたが今日、日向兄に新しいのを買えと言われた。
 なんでもツルツルになったボールは良くないらしい。
 繋ぎを着直してポケットの中のお札を何枚か取り出し、また仕舞う。
 今からスポーツセンターに行くのだ。






***






「なんでついて来るんですかっ!!」

「黒子っちだって!!」

 互いにちょっかいを出しながら名前が逃げた道を辿る。恐らく家だろう。
 しかし互いに邪魔しあうからか全く進んでいない。
「イグナイトッ!!」

「げふっ。くらえっ」

 黄瀬が倒れる際に黒子の手を引っ張り二人して用水に落ちた。
 この時期は水が少ないから助かったが、寒い。

「全く!何するんですか!!」

「先にイグナイトしたのは黒子っちっス!!」

 ギャーギャー騒ぐ二人に、通りすがりのおばあさんが、ウフフと笑ったのは言うまでもない。






***





『(確か6号サイズだったような…)』

 と思いつつバスケのボールは6号しか置いていなかった。取り敢えず良さそうなのを買って外に出た。
 新しいボールが何となく嬉しかった。そして二人に会えたことも嬉しい。
 
 何より待っていてくれたことが名前にとっては最大の支えとなった。





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