■ 愛してる。

 名前っちから黒子っちと同時送信されたメールを受け取った。

 "入学式の日にまた会おう。会えなかったらさようなら。自分勝手でごめんなさい。"

 進学先が違う俺たちの運命の分岐点。今まで、本気になったオンナノコなんていなかった。いわゆる初恋だ。

「初恋は実らないなんて決まったわけじゃないっス」

 自室を出てリビングに放り出されたパーカーを着て帽子をかぶり、伊達眼鏡をかけた。

 長い、長い春休みはあと三日。長い長い恋も、もうすぐ終止符を打たれる。






***






 騙すことなんて簡単だ。でも彼女を騙すのはできなかった。むしろ騙されたのは俺の方だ。
 行った先はストバスだった。きっと俺の話したい人がいると思ったのだ。
 ダムダムとボールをつく人がたくさんいてコートをローテーションしながらプレイをしている。
 一番奥のフェンスに背中を預ける水色髪の青年は俺に気がつくと驚いた顔をした。

「黄瀬くん。奇遇ですね」

「あ、マジでいたっス」

 さすがバスケバカである。こういう所は以心伝心しているのかもしれない。

「ボクがここにいることを予想してたんですか?駄犬にはさぞかし難題だったでしょうに…」

「さらっと嫌み言わないでほしいっス!!……でも無理難題ではなかったっス」

 昼食を食べに出た人で入り口がたむろする。しかしそんな中、二チームだけが試合続行していた。

「はぁ、黄瀬くん。マジバにでも行きませんか?」

 黄瀬は試合をしている人を見ながら黒子に、ねぇと話しかけた。黒子は黄瀬の目線の先を見る。

「あれ、名前っちじゃないスか?」

 黒子は黄瀬に言われて気がつく。

「…本当ですね。ホンモノです」

 軽快なステップでバスケをする彼女は高校生と思われる青年に混じって笑っていた。髪はポニテにしてキャップをかぶり、ダブダブの繋ぎを半分脱ぎ腰に袖を巻き付けていた。肌寒いのに半袖で走る彼女は汗を流していた。


「名前っちってあんなボーイッシュだったスか?」

「いえ、むしろ可愛い系だったかと…。それより名前さんはバスケをやってなかったハズですが」

 名前がレイアップをキメたところで試合が終了する。
 試合のあとコートの真ん中に集まる。話し声に耳を澄ませた。

『これでもう、平気だよ。日向兄、ありがとう』

 眼鏡で短髪の青年は嬉しそうな顔で、そうかと言った。

「大切な奴のためにバスケを一から習うってお前、スゲェよな!!入学式、頑張れよ」

『ありがとう。……もし入学式で出会えたらこのストバスで1on1をしたいから!!』

 高校生くらいの青年に囲まれた名前は爛々と目を輝かせ手元のボールを握った。

「ホントによぉ…、結局、海常と誠凜どっちに行くんだよ」

『笠松サン、それはまだ秘密だよ』

「まぁ、誠凜に来てくれることを願ってる。カントクが名前みたいなマネジほしいってうるさいし」

「だいたい、ライバル同士の高校のスタメンにバスケを教わるってお前も大した奴だな」

 笠松と呼ばれた青年がエナメルバッグを持ってゾロゾロと仲間を引き連れ出て行った。

「名前ちゃん、愛してる」

『森山サン、どうも。でも心に決めた人がいるんで』

 軽く手を振る名前は日向兄と言って礼を言う。

『私、自信がついた。リコ先輩にもありがとうって言っておいて』

「おぅ」

 日向という人物も仲間を引き連れストバスを出て行った。

 ツルツルにハゲてきたボールを撫でながら名前が踵を返したところで黄瀬と黒子の存在に気がつく。




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