■ アンドロイドの気持ち
アンドロイドも風呂に入るらしい。黒子が来てから三日だが、毎日普通に入ってる。基本的に充電とお茶とバニラシェイクだけで生きているような奴がお風呂に入って平気なのかと思ってしまう。
何気に黒子はシャンプーハットを持参している。一体歳はいくつなんだと問えば、しれっとした顔で18歳だと言った。
黒子の部屋は名前の部屋の横。よくよく考えたらアンドロイドを買うなら女の子が良かった。自室のベットを転がりながら思う。
別に黒子に対して不満があるわけじゃない。
ご飯は美味しいし、先生からの嫌味で出された課題も手伝ってくれる。むしろ優しすぎるほどだ。
隣の部屋のドアが開閉する音が聞こえて黒子が風呂から上がったのだと分かった。
名前は何となく、枕と人形を持って隣の部屋に行く。乱暴に黒子の部屋のドアを開けた。
『テツヤ、一緒に寝よう。どーせ、アンドロイドだから男女関係ないでしょ』
「いきなり何言ってくれてるんですか。関係ありありですよ」
黒子の呆れたような返答に名前は馬鹿にした。
『動く人形は私に従えばいいの』
「…そうですか」
黒子は夢から覚めたような顔で名前を見て、俯いた。
『それとも何?感情があるというの?』
「無いと言えば嘘になります」
黒子が引き出しから上着を出して入り口に立つ名前に冷えますよ、と言ってパジャマの上から着せた。
『…機械なのに?』
「はい。人ゲノムという言葉を知っていますか?」
名前を部屋に招き入れ、ベットに座らせる。黒子は向かいにあったデスクの椅子に座った。
『知らない』
「ゲノムとは遺伝子のことです。遺伝子とは生物の形質を決める設計図のようなものです。そして遺伝子の本体をDNAと呼びます」
名前は少し興味が出たのか聞き入っている。
『へぇ…』
「遺伝子と記憶を記録するためのコンピュータと人を模(かたど)る細胞があればアンドロイドが作れます。その時、感覚や感情のデータも入れられます」
黒子があまりにも悲しそうな顔をするので、名前が困った顔をする。
『そ、そうなんだ』
「だから感情が無いわけではないんですよ。でも主人の命令は絶対です」
黒子が椅子から立つと電気を消して、ベットに潜り込む。名前も枕を整え人形を抱きしめながら布団に入る。
黒子に引っ付いて寝ることにした。黒子はちゃんと応える様に軽く抱きしめ頭の後ろをトントンと叩く。
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