■ 甘やかな二人の世界

 マジバを出る頃にはもう夕方だった。雨もやんで温かな夕日が二人を包む。
 何でもない休日が幸福だと思える。だからこそ、手を繋いで、マフラーを共有して相合い傘をして、同じものを食べることができるのだと名前は思っている。
 二人の宛てのない散歩も終わりを迎えた。

「…今日は寒いから上着は貸しておきます」

「ありがと」

 素っ気ない返事を答えると、黒子に引っ付いて歩く。
 腕を組んでくっつくと、俯いて黙りこくった。

「明日から学校ですよ。しかも来週はテスト期間」

「…うん」

「評定と点数に一つでも赤があったら三者らしいですよ」

「…うん」

 名前の家に近づく度に、名前の声は小さくなっていく。
 黒子は微笑んで頭を撫でた。

「また明日、です」

「……」

 ついに名前は唇を噛み締めて眉を眉間に寄せて黙ってしまう。
 名前の家はまだ先だというのに、黒子が別れを告げる。

「…名前、」

 頭を撫でている手を名前は叩き落とした。口は鳥のくちばしのように尖んがり、まるで駄々をこねる子供の表情である。

「………」

「また明日…、というのは嘘で」

 今日は泊まって行きませんか?と黒子は続けた。名前が一瞬にして顔を上げる。
 その頬は朱色に染まっており、すこしの無言のあと、黙って頷いた。
 ならば荷物を取りに行こう、と黒子はそんなようなことを言った。

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