■ 雨の日は相合傘で

 可燃専用のごみ箱に使用済のティッシュを放ると、二人の足は自然とベンチに向かった。
 ストンと二人が座ると、年中外で活躍を続けるベンチがギシリと鳴った。
 木の葉がぱらぱらと落ちて来る。たくさんの木の葉が名前と黒子の頭に着地をする。
 黒子が頭を振って、木の葉を落とすと、名前の頭の上の木の葉も払い落とした。

「いっぱい落ちて来るね」
 名前が肩掛けの小さなバッグから淡いピンク色の折りたたみ傘を取り出した。
 淡いピンク色の折りたたみ傘は静かに広がり、二人の頭を見下ろす。

「これなら大丈夫ですね」

 傘を見上げて、黒子は微笑んだ。
 名前がベンチの背もたれに折りたたみ傘を上手く引っ掛けると、二人のための落ち葉避けができる。

「ふぅ…」

 黒子に肩を預けると、名前の剥き出しのひざ小僧にポツリと小さな雨粒が舞落ちた。
 名前があっと声を上げる。それに合わせて黒子が上着を脱いで膝に掛けてくれた。
 黒子の体温で生暖かい上着が外気で冷えていた膝にはとても心地好い。ついでに雨粒から守ってくれている。

「天気予報が嘘をつきましたね」

 共有しているマフラーから黒子が脱出すると、名前の首から肩にかけて巻き直す。上着を着せて、厚着の雪だるま状態にすると、折りたたみ傘を手にとって名前と指を絡めた。

「…テツヤ寒そう」

「寒いです。だからマジバに行きましょう」

 奢りますと言って、名前の手を引いた。傘からはみ出した黒子の肩には雨粒がポタポタと染みをつくる。
 しかし名前は傘からははみ出る事はない。彼の優しさが滲み出ている。
 黒子をよく紳士のようと言う人がいるが、紳士は紳士でも田舎紳士の方が彼には合っている気がした。
 確かに上品で振る舞いも申し分ない。けれども普段は驚くようなことだって言う。それこそ火神を馬鹿にしたようなおどけた発言もするからだ。

「今日はシェイクのクーポン券を持っているんです」

 爛々と目を光らせる彼は紳士でありながらも無邪気だった。

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