■ 無自覚の恋人達繋ぎ
秋の淡いブルーが空一面を覆い、所々に白い雲が伸ばされるように浮かんでいた。
少し冷たい風と気温が、名前と黒子を包み、鼻が寒さで色づく。
長いマフラーを二人で巻いていると、簡単には離れられない。二人は指を絡め合いながら、街の片隅を歩いていた。
名前が鼻をズッと啜ると、黒子がポケットから道端で配られていたティッシュを差し出す。
その時、こんにち初めて二人は手を離した。
無言でそれを受け取ると、一枚だけティッシュを拝借して返した。
ズビーッ!と汚らしい音がしても、嫌な顔をせず、黒子は無表情のまま歩き続けている。
「ごみ箱ってどっかに無い?」
行く宛てもなくさ迷う二人は一つの目的を見つける。
黒子の口から白い吐息が漏れた。ふわふわと舞い上がって、すぐに消えた白い吐息は今は行方知れずになる。
黒子が目線を空に移し、少しの沈黙が訪れた。
丸まった使用済のティッシュが、名前の片手に収まる。そこで手ぶらになった名前のもう片方の手に再び黒子の手が絡んだ。
「…この先に、確か…公園がありました」
手を繋いでいないほうの手で、この先と思われる道を指差した。
人通りの少ない道だからか、すれ違う人は片手で数えられるほど。そんな中に二人はいた。
「うん」
その返事を合図に定まっていなかった二人の目的地が決まる。
二人は暖をとるように強く強く、指を絡める。お互いに手袋をしていないのは、きっとそのためだろう。
凸凹に舗装されてしまった道路をゆっくりと歩きながら、無言の会話が再び訪れる。
住宅街に差し掛かった所でピアノの練習をする音がする。名も知らぬピアノの旋律が二人の間を通り抜けた。
この先に、公園がある。
完全に人気が無くなり、二人の歩く音と呼吸の音だけが響いていた。
「寒いですね」
「うん」
黒子が目線を向こうへ逸らすと、名前もそちらを見る。
公園の遊具が見えた。しかし、こんなにも近いのに子供の遊ぶ声は全く聞こえなかった。
近頃の子供は外で遊ばないのだろうか。
道に小さな窪みを見つけて、名前がそこを避けて歩くと黒子との間が更に縮まる。
「あ、あそこです」
公園の入口が見えた。
名前がそちらを見ると、遠慮なく中へ入っていく。
マフラーで繋がっている黒子もつられるように入っていった。
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