■ ……冗談ですよ
さらに翌日。名前はまたもや昼休みを科学準備室で過ごしていた。
また大きめの弁当箱を突いていたが、疲れきっているようにも見える。
一方の黒子は、何も変わらないように思えた。むしろ元気そうである。
「今日のきんぴらごぼうは絶品ですね」
もぐもぐと口を動かす黒子に対し、箸も持たずに床でぐったりとしながら寝そべる名前はウトウトとしている。深夜まで課題をしていた結果がこれである。
返事をする気力さえも無いのか、ピクリとも動かない。
当然、黒子は面白くない。きんぴらごぼうを飲み込み、箸を置いた。
「名前さん、起きてください」
傍まで寄って、寝そべる名前の肩を揺するが、反応は無い。心無しか、いびきも軽く聞こえる。
黒子が眉をハの字にして、ため息をついた。
黒子も横に寝そべる。そして目をつむった。
「(こんな無機質な床でよく寝れますね)」
寝返りを打つ度に、ゴリゴリと頭や背中が床に当たり痛かった。
ふわふわの布団が恋しくなる。
黒子は起き上がると、弁当箱をしまって、名前を背中に背負った。
弁当箱を器用に持ちつつ、名前も支えて科学準備室を後にした。
***
温かな体温とシャンプーの香りと、ちょっと汗くさい髪の毛がふさふさと名前の鼻をくすぐる。
ついでに石鹸の匂いもするものだから、名前は思わず、すんすんと香りを楽しみながら、その首筋に擦り寄った。
「っ!…ちょっと名前さん、寝ぼけてるんですか?」
黒子が小さく聞くが、反応は無かった。
密着した体はさらに近づき、背中から名前の胸や首に回された腕の細さ、支えている太もも、全てがダイレクトに伝わる。
名前の寝ぼけ攻撃に黒子が反撃する間もなく、歩き続けるしか無かった。
***
ベッドに埋もれる名前は黒子の制服から手を離さなかった。
かろうじて握っている学ランの裾がしわしわになっても黒子は咎めなかった。
黒子が顔を覗くと、だらし無い無防備な顔がある。
小さな唇に吸い付こうか迷ったが、黒子はあと数ミリというところで離れた。
「……冗談ですよ」
そう言ってごまかす。
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