■ どうなるか分かってますよね?

 そうだ。彼は部活を急いで抜けて、名前に告白をしたのだ。
 しかし、名前はあまりのことに逃げ出してしまい、今に至る。現実的に言えば、悲鳴を大声で叫んでも良い。脅しに近いからだ。
 しかし黒子の威圧に押されてしまえば、叫ぶ前に声が出なくなる。

「無言は肯定と受け取りますが?」




***




 翌日の昼休みのこと。名前はビクビクとしながら科学準備室の隅で弁当を突いていた。
 昨日の放課後のことはあまり覚えていない。はっきり言うと家に帰った記憶もなく、気が付いたら朝を迎えていた。
 ほぼ記憶がないが、黒子に迫られたのだけは鮮明に覚えている。
 一体何をされたのかは想像もしたくないが、悪い予感が頭から離れなかった。
 さらに一つ、疑問がある。なぜ黒子が同じ弁当を突いているのかだ。
 いつもより大きめの弁当箱。黒子は当たり前というような顔で卵焼きを食べていた。

「あの…」

 名前が泣きそうな顔で黒子を見上げた。確かに大きめの弁当箱は名前の母が用意したもの。彼の手の中で転がされているのが、簡単に分かるが、これはどういうことだろうか。

「名前さんの聞きたいことは分かっています」

 だから黙れ、と遠回しに言う黒子が優しいのか腹黒いのかは、別と考えよう。
 つまるところ、黒子は今から説明をしてくれるらしい。

「昨日、ボクは気絶した名前さんを背負って家に送り届けました」

「!?」

 名前の箸からポロリとプチトマトが落ち、弁当箱の中へ再びインする。
 目を丸くした名前は口をぽっかりと開けて黒子を見つめた。

「まぁ、いろいろボクがやらかしてしまって…。まさか気絶するとは思わなかったんですよ」

 そこで名前は良からぬ想像に全身に鳥肌が立ったのが分かった。
 カランと箸が指から滑り落ち、無機質な床に転がる。

「でも、おかげで名前さんのお母様には会えましたし、お弁当にボクの分まで詰めてくださると…」

 黒子がチラリと名前を見た。
 名前は冷や汗を流しながら、そっと目を逸らした。しかし、黒子は気にしてはいないようで、フッと笑った気配だけを残し、空間が止まったような沈黙が訪れた。
 名前は数十秒の間、目線を晴々とした窓の向こうに向けていたが、恐る恐る黒子の方を向いてみる。

「これからボクらの関係が変わります。つまり、どうなるか分かってますよね?」

 爽やかな笑みの中に、真っ黒な腹を持っているとは思えないほどの優しい声音で言われ、名前は恐怖で頷くことすら出来ずにいた。


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