■ ボクが忘れさせてあげます
名前が毎日のように黒子の家に行く。
もはやそれが日課で、泣いていなくても、黒子のところへ行くのだ。
『テツ、私ね…、寂しいのかも』
「え…」
空虚な瞳に光りが戻った名前に黒子の不思議そうな声があとを追う。
『毎日、学校で考えてはそうなんじゃないかな…って思うようになったんだ』
「そうなんですか…」
黒子の顔が歪む。黒子には名前の寂しさを埋めきれていないことが悲しくて堪らなかった。
『私には太陽は眩しいの。例えば黄瀬くんとか青峰くんみたいな人たち』
「じゃあ夜はどうですか」
不思議な例え話だと名前も黒子も思った。
『だめ。…月も眩しいの。それに月は消えていなくなってしまうから。星も眩しくて堪らない』
「なら影はどうですか」
『影は…怖い』
まるで黒子が怖いと言うような顔だった。
頭を何か固いもので殴られたような気分。そしてありもしない鈍痛が心にあらわれる。
『影は優しすぎて怖いの。いつか、…はなればなれになったとき、私は今より悲しくて寂しくて堪らないと思う…。だから怖い』
「名前、ボクはいなくなったり離れたりしませんよ」
抱き寄せると名前は身を任せるようにうなだれる。
『そう言って私をフッた人がいるの』
「そんな人なんて忘れてください」
『忘れられないの…、』
黒子は桃井の言葉を思い出した。
"テツくん、女の子は恋をしていないと寂しくなる生き物なの。だから私もテツくんに恋してるんだよ。一度誰かを好きになればその感覚は残るんだ"
黒子の体がわなわなと震えた。好きになると最後は深い傷を負ってこんなに苦しくなってしまうのか、だから名前はいつも泣いているのか。
『テツ…?寒いの?震えてるよ?』
「…名前が、」
『え…?』
「名前が忘れられないなら、ボクが忘れさせてあげます」
名前の中に疑問が渦巻く。どうして?なんで?と自問自答する。
『テツ?いきなりどうしたの…』
「ボクは名前から離れたりしませんよ。だからボクにしときませんか?桃井さんから聞いた話なんですが、女の子は恋をしていなければいけないようです」
キョトンとした名前に黒子は微笑んで頭を撫でる。
『さつきちゃんが…?』
「はい。一度誰かに恋をしてしまえば、その感覚は残るとも言っていました」
だから、と黒子が言いかけたとき名前は泣きはじめる。
『私、テツに恋をしたらいいの?』
「はい。ボクだって名前に恋してますから」
ちょっと強引なこじつけたような告白。
黒子らしいと名前は思った。
強引に慰める黒子くんと私。
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