■ 07

「黒子っちは新しい相棒がいいんスか?」

 俯いた黄瀬の顔は嫉妬で歪む。スラムにいた頃もこんな顔を見たことがある。

「そりゃあ、そうですよ。未練たらしい君とは違いますし、何より素直でいいですからね」

 ふわりと笑った黒子は優しい顔をしているのに恐ろしい。
 手ぶらの右手はまたもやウェストポーチに入り、銃を取り出す。

「そう…っスか。なら、…遠慮はいらないっスよね」

 悲しそうな顔をして笑う黄瀬。なんて器用な人なんでしょう、と黒子は思った。











Act07













 黄瀬の手は空中を切り黒子に向けて何かが飛んで来る。黒子は一瞬戸惑う。
 見えない。見えなかった。どこでコピーしたかは知らないが先ほど投げた黒子のナイフが見えない凶器となり本棚に突き刺さる。

「随分と危ない技をコピーしたんですね」

「すべては勝つため…っス」

 そっくりそのまま返された言葉に黒子は笑う。その顔は黒子とは思えないほど、歪みきっていた。
 黄瀬は驚く事もなく、攻撃を仕掛けることだけに集中する。

「…容赦はしません!!」

 そう言った所で図書館内に火災警報機が鳴り響く。 黒子も黄瀬も火災警報機の音には驚き、固まった。











 これがこれからの警鐘になるとは誰も予想しなかった。












《火事です。火事です。速やかに避難してください》

「「!?」」

 黄瀬と黒子は驚いて天井に設置された災警報機を見上げる。ジリジリと甲高く、馬鹿でかい音に耳がやられそうだ。
 先に動いたのは黄瀬だった。黒子も後を追う。黄瀬を先頭に窓へ向かった。
 入り口からは焦げ臭い臭いが入り黒子は一瞬振り向いた。その瞬間を狙ってか脱出しようとした窓が壊される。黄瀬は笑っていた。

「サヨナラ。黒子っち」

「……っ」

 黒子は隣の窓を開けるが建物自体が歪んでしまったのか開かない。
 このままでは黒子は蒸し焼きになってしまう。
 油断していたのがいけなかった。余裕の表情は消え、無表情へ戻る。

〔テツヤ…〕

 そう頭に聞こえてきた。
 途端に名前は大丈夫なのかと心配になる。黒子は窓から背を向け、叫んだ。

「名前さん!出て来てください!!」

 スプリンクラーが水を吹き出しているのか、入り口のドアの隙間から水がジワジワと床に流れ出ていた。 黒子は入り口に走って体当たりして突破する。
水が体中にかかり軍服を濡らす。所々に残る火を踏んでやる。後はスプリンクラーの水の効果で消えるはず。

〔私は外にいるよ〕

「…っ!?」

 頭の中で響く言葉は名前の声に似ている。だからか名前だと決め付けて安否を求めた。

「名前さん!?どこですか!!返事をしてください!」
 廊下を走り抜けるとまたあの声。

〔早く、建物が崩れちゃう〕

 この声はたぶん名前。そう思っていいのか分からないが黒子は受付のある、ホールを通り抜け半開きになった自動ドアの隙間から図書館から抜け出した。
 途端に図書館が崩れ始める。

〔門の前に、い〕

 また聞こえた声は途中で途切れた。
 後ろでは図書館が崩壊し、埃を巻き上げ炎上している。

「名前さん!!」

 門の前では膝を抱えて寝ている名前。黒子は名前を抱き上げると、あのゴツいトランシーバーのような携帯をポケットから取り出し軍部に連絡をする。

「……………」

 早く繋がれと呟いた所で回線が繋がる。

「あっ、東京本部特殊部隊中隊長、黒子テツヤです。〇〇〇区の図書館が契約者により大破されました!」

 いちいち長い。早口言葉は苦手だから最初はよく噛んだな。と思いながら、壊れゆく図書館を横目に名前の肩を強く抱き寄せた。












***












「全く!貴方は私達の上司なんですからしっかりしてください!!」

「す、すみません。しかし、ボクにもやむを得ない事情が…」

 図書館付近に設置されたテントの中でまたもや部下の説教。上司なのに、と愚痴を零せるわけが無く、黒子は椅子の上に正座していた。

「まぁ、無事で良かったです。名前ちゃんが」

「…ひどいですね。僕の心配はないんですか」

「そりゃ心配しましたよ。死なれたら喪服出すの面倒だなーって」

「…………………」

 テントの長机をベッド代わりに寝ている名前を見れば寝癖だらけで半身を起こして目を擦っていた。

「テツヤあ…。おはよう」

「おはようございます」

 脳内に響いたあの声は名前にそっくりだった。もし彼女が"契約者"と呼ばれるものの類だったら?
 そんな恐ろしい考えが過ぎった。

「テツヤ、」

「どうしたんですか?」

「図書館行こう?」

「え?」

 まだ眠いのか瞬きを繰り返す名前。そんな名前に黒子の部下も驚いた様子だ。

「今から行くんでしょ?無料で本が読めるところ」

「……すみません。名前さんと二人で話がしたいです」

 部下は黙ってテントを出て行った。深刻な面持ちで、黒子は名前を見つめる。

「テツヤ?」

「名前さん、貴女は図書館に行ったことはありますか?」

 名前は何を言っているのか分からないという顔をしている。

「…ないよ?」

 名前は忘れてしまったのだろうか。黒子の中で仮説が組まれては消えていく。

(違う)

 自問自答の末、黒子はある仮説にたどり着く。
 それが本当なら…。
 そう考えただけで口元が緩んでしまった。
 そんな黒子に名前は、変なのと零す。




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