■ 05

 今日の仕事を終えて夕方になり早めの帰宅をする黒子。
 名前が紙を出し、黒子に見せながら照れ笑いをする。調べた漢字は約30以上。

「すごいですね。こんなに調べたんですか?」

「はい。全て覚えました」

「名前さんにはそのうち本を買ってあげようと思います。待ち遠しいですね」

 黒子が笑いながら言った。手を繋ぎ、朝通った道を逆流していく。名前はいろんな物を見ながら歩く。


「テツヤ、昼間、…」

「え?

不意に名前が話し出す。











Act05














「昼間、窓から入った人は誰ですか?」

「窓から…」

 黒子は青峰を思い出す。名前は客間にいたはずなのに、バレてる。思わず名前を見てしまった。

「ねぇ?テツヤ。教えて!私、あの人が…」

 名前の燃えるような赤い目が、黒子の背筋がぞっとする。名前に会話を聞かれたのかと思えば更に体が強張る。

「ど、泥棒だったら…。テツヤが心配で…、その、」

 もじもじと言った名前に黒子は吹き出す。緊張が一気に解けた。

「ぶふっ!!」

「テツヤ!?」

 余りにも外れた内容だった事に黒子は馬鹿馬鹿しくなり笑い出した。

「ぷふっ、ふふ…」

「何で笑うんですか!!」

「すみ…ま、ぶふっ!!」

 笑い続ける黒子をポカポカと叩く名前は講義を続ける。
 それでも黒子は笑い続けていた。名前は頬を膨らませて、黒子を見上げていた。
 すっかり警戒心を解いたようだった。

「テツヤ!酷いです!こっちは心配して…」









***









「名前さん、夕食は何がいいですか?」

「テツヤに任せます」

「じゃあ、あるもので適当に作っちゃいますね」

 帰って早々、夕食の準備を始めた黒子を背に名前はまた漢字辞書を持って部屋の中を散策し始める。
 黒子の家にはオフィス以上の本があった。それはオフィスの書類とは違い、ストーリーがある文章で名前の好奇心をくすぐった。
 本の山の中心に座ると、名前は楽しそうに見渡す。
 そこら辺に積み上がっている本の表紙を眺め何やら分類を始めた。
 だんだんと本の塔が出来上がり、よく見ればジャンル別になっているようだ。

「…………よしっ!」

 積み上がった本の塔の中にある、全ての漢字を書きだし始めた。
 少しずつ字も綺麗にまとまり始めた名前。
 鉛筆がさらさらと紙の上を走る。
 歳相応の表情が見えはじめ、黒子はキッチンから戻ると、頬を緩めた。

「楽しそうですね」

 サラダを机に置きながら黒子は言った。

「漢字って面白い」

「そうですか。漢字はものすごく昔からあるんですよ。それにただの記号じゃないんです」

 黒子の言葉に首を傾げる。漢字を文字として捉えていた名前には記号という言葉がしっくりとこなかった。

「漢字の成り立ちには意味があるんですよ。例えば川という漢字なら川の流れををイメージして作られてます」

 感心して聞く名前の口はぽっかりと空いていた。
 黒子はそれが何となくおかしくて、笑いそうになる。

「テツヤは物知りだね」

「誰でも知ってますよ」

 誰で知ってることを名前は知らなくて少し落胆する。

「じゃあ、世界中の人が知ってるんですか?」

「…世界中の人とは言い切れませんね。日本語を公用語としているのは日本だけですから」

「へぇ、」

「でも日本語って難しいんですよね。文法が他の国と違うらしいです。ボクは英語とかは苦手ですけどね」

「えーご?」

「英語は知らないですか?」

「知りません」

 別の国の言葉だと解説を入れた黒子の指にはサラダのつまみ食いのあとが残っていた。

「例えば…I'm Kuroko tetuya.I like reading.I can spke Japanese.I went to office today.I hate battlefield.…みたいな。合っているかは微妙ですが」

「それが英語?なんて言ったのですか?」

黒子は訳しはじめる。

「ボクは黒子テツヤ。読書が好きです。日本語を話すことができます。今日は仕事に行ってきました。ボクは戦場が嫌いですって言ったと思います。関連性の無い文ですみません」

「へぇ…」

物珍しそうな目で黒子を見る。

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