■ 41
例えば、あの子と同じ顔の女の子を見たとする。
例えば、あの子と女の子が同一人物だったとする。
例えば、あの時あの子を助けていたとする。
例えば、あの時あの子に恋をしていたとする。
例えば、あの子が自分の正体に気づきはじめているとする。
そんな世界が訪れようとしている。自分が用意したシナリオとは違う世界が訪れようしている。
例えば、好きなあの子にボクの願いを妨げられたら、次に何をすればいいのか。
例えば、好きなあの子がボクを邪魔しようものなら今まで通りに殺せばいいのか。
どこからズレてしまったのか、どこからシナリオが綻び始めたのか、分からずに、ただ壊すだけ。
強く願えば世界はボクを中心に回る。
あの赤司くんさえ差し置いて、世界は公転する。
ボクはといえば坂道をボールのように下りながら自転していく。
「(まるで宇宙だ。天体が自転し、公転するようにボクも、世界も…)」
死んでゆくのだろうか。
「(…そんなのは許さない。この世界は殺さなくてはいけない、…ボクが死のうが誰が死のうが関係ない。例え名前さんでも…)」
Act41
久しぶりのオフィスにはいつもの部下が三人揃っていた。
「おはようございます」
「隊長、おはようございます」
黒子と三人の部下はただオフィスに立ち尽くした。
彼ら以外は誰もいない。
「覚悟は出来ていますか?」
「「「はいっ」」」
「同じ世界をうらむ同士として…、」
黒子が笑った。
「今までありがとうございました。ボクの体は限界が近いです…」
「そのために今日まで黒子さんのために俺達は生きてきたんですから」
その日、暗殺部隊から人が消えた。
***
『青峰さん、……一つ聞いても良いですか?』
「んだよ?」
赤みがかる髪をポニーテールに束ねている名前を横目に青峰が返事した。
別の離れた場所には黄瀬の墓石を中心にキセキが勢揃いで話し合っている。
紫原が話の内容を慣れない手つきで名前から借りたメモに綴る。
そんな彼らを背景に名前は言った。
『テツヤは、契約者なの?』
「あー…、その話か。まぁ結果的にはそうなるか…」
『そう…、じゃあいつかは……』
ゴチンっと頭に衝撃が走る。青峰が名前の言葉を遮るために感情に任せて名前を殴ったのだ。
「ワリィ…、手が出ちまった」
『…触れないんじゃないの!?』
頭を押さえながら名前は言った。
「…故意には触れねぇ。でも、無意識なら触れる」
『ほぉ…』
疑いの目で名前は青峰を見る。
「一つだけ言っていく。先のことは考えるな。今を考えろ。今やっている課題だけを見ろ」
『………そうだね。私は勝たなくちゃいけないんだから…。全てに勝つことは正しい、それが理念で呼吸と同義…』
青峰が名前を見下ろした。その真剣な顔は赤司の表情と同じだ。
オッドアイと赤い髪さえ揃えば更にそっくりだろう。
「…赤司と似たようなこと言うなよ」
『え?』
キョトンとした名前に青峰はボリボリと頭をかく動作をする。実際、痒いのかは分からないが。
「"全てに勝つボクが正しい"だったっけな…。あと、"ボクに逆らう奴は親でも殺す"とか」
『征十郎…、そんなことを…』
兄の怖い一面に怖じけづいたかと思えば、名前はカッコイイと目をキラキラさせる。
「(……コイツら双子の感性が意味分かんねえ!!)」
『他には!?カッコイイ台詞ないの!?』
[
prev /
next ]