■ 40
対峙する二人をただ見ることしかできない。
ただ怖くてしかたがない。自分も同じ類の、契約者と呼ばれる存在なのだから。
「一人目だとか二人目だとか関係ないだろう?すべては実力だ…」
黒子の目は嬉しそうで、その中には狂気さえも感じられる。
「そうですね」
「一つ聞こう…。テツヤは契約者かい?」
「赤ちん、黒ちんは契約者じゃないはずじゃ…」
紫原は赤司を指摘するが黙ってろと言わんばかりに睨みつけられる。
「強いていうなら成れの果てですね」
黒子の返答に耳を疑った。
「……どういうことだ?」
赤司がギラリと目線で黒子の姿を捕らえる。
「どうもこうも……、」
黒子は革製の右手袋を外し、左目に指を突き刺した。
「っ!黒ちん!?」
失明してしまう、と手を延ばすが赤司に阻まれる。
「こういうことですよ…」
Act40
指を抜き、血が溢れる左目をギュッとつむっている黒子はニヤリと笑った。
そして、ゆっくり左目の瞼を開けた。
「何でもアリな世界でボクらみたいなバケモノがこうして仲間割れしている、願えばこうなる。ボクの仕組んだ通りの世界へ変わる」
黒子の左目にはローマ数字の"T"の文字。
紫原は一歩後ずさる。
「つまり、こうなることも知っていたのかい?」
「えぇ、全てはボクを中心に動いてますから」
ホルスターの銃を抜き取り赤司へ向けた。
「黒ちん、赤ちん!俺達…」
仲間だよね?、と聞きたい。けど怖くて聞けない。
「紫原くん、赤司くん。少しの間でしたが、ありがとうございます。…そして、ごめんなさい」
途端に赤司の表情が変わった。驚いているようだった。
「テツヤ…」
「赤司くん、良いことを教えましょう。最短で二年後、君は死にます。……どういう意味か、分かってますね?」
紫原は目を見開いた。以前、赤司本人から聞いた妹の話。また妹に会うために赤司は戦っていると。その時までは互いに協力しあうことを誓ったのを覚えている。
「…そうか」
「ここでボクが死ぬとキミは一生、名前さんに会えない…。ボクが全ての中心だから。ゲームの主催者だから…」
赤司は構えを解き、黒子は銃をしまう。
「敦、帰るぞ。…キセキは解散だ」
「赤ちん…」
本格的に始まったゲーム。知らないほうが良かったと思えるような真実。
黒子によって敷かれたレールをただ歩いていたと言うのか?
「一つ、警告します。ボクみたいに道を踏み外さないでください。…それと人を殺すと、ろくなことがありません。何でもアリな世界だからこそ、こんな…ろくでもないことが起きているんです」
人呪わば穴二つ。黒子の二年前に聞いた最後の言葉。
それ以来、黒子は行方不明になった。
***
「それでキセキは解散。そのあと誰の仕業か知らないけど貴族狩が軍上層部の暗殺部隊よって開始されたんだ〜。暗殺部隊だから黒ちんだろうけどね」
『……』
呑気に紫原は言うが結構な惨事だったに違いない。
「ちなみに暗殺部隊の噂で、透明人間とか三人の部下を連れたバケモノって呼び名があるんだって」
『でも、テツヤと征十郎は戦わなかったんだね?』
目頭が熱くなる。
「うん。赤ちんは名前ちんと会うために全てを捨てて、キセキを解散したんだ〜…」
『どうしよう…。私、征十郎のことを信じられなかった、今からでも良い!謝りたい…。お兄ちゃんに会いたい』
顔を両手で覆い隠した。泣いている顔なんて見られたくない。
「…会いに行く?」
***
いつもの墓地に会話が生まれていた。
「でね、名前っちが…」
「黄瀬、前にも聞いた話しをするな。飽きたのだよ」
緑間が不機嫌そうに言った。
「えー!?じゃあ…」
「涼太、うるさいよ」
赤司の一睨みでシンとする。青峰が顔を上げる。
「…誰か来るぞ」
「野生動物っスか…」
墓地の入口に紫色の長身の男と少女が立っていた。
「…敦」
赤司が呟くと、少女はこちらへ走って来る。白髪は薄い赤が太陽の光を反射してキラキラ光る。
『征十郎オオオォッ!!』
「「「「!?」」」」」
ガバッと赤司に抱き着いたつもりが、体をすり抜け向こうへスライディングしていく。
「あ〜、名前ちん。危ないよ〜」
紫原がゆったり歩いてきた。そして赤司の前に立ち止まる。
「あ、敦、僕が見えるのかい?」
赤司の驚きを含んだ声が紫原に届く。
「え〜?赤ちん?どこにいるの?見えないけど声は聞こえるよ〜」
『征十郎!何で避けるの!?』
砂まみれの名前がズンズン歩いて来る。
「避けていない」
その言葉に名前は驚く。
『もしかして、触れないの…?』
「気づくのが今更すぎるのだよ…」
幽霊に触ろうなんてこと自体が無いため今まで気がつかなかった。
『まぁいいや』
「いいんスか!?」
名前は赤司と向き合う。
「な、なんだ…」
赤司が一歩下がる。
『……なぁーんだ、結構身長差あるじゃん…。双子だっていうからもっと似てるのかと思ったよ』
「薮から棒に何を言うかと思えば…」
赤司の手が名前に触れようとした。
『ごめんなさい。信じられなくて…、あっくんの話を聞いて心の整理がついたの』
名前の耳のピアスが光を反射する。
「そうか………」
赤司の悲しげな表情が崩れ、嬉しそうな表情へ変わる。
『だからね、……考えたんだ。ここへ来る途中に。……私はテツヤを助けたい』
シン…とした墓地に名前が力強く語る。
『奴隷だった私を助けてくれたのも、本当の名前を教えてくれたのも、寂しかった私を抱きしめたのも、…皆に会えたのも…テツヤがいたからなんだ』
名前は目元を赤くして腰を曲げ、頭を下げた。
『お願いします。私にテツヤに対抗する術を教えてください。テツヤが何者でも良いから…、私は戦う』
「オイ、頭上げろよチビ」
何か失礼なことを言われたような気がして頭を上げた。そこには健康的な肌をした青年が立っていた。
『…だれ?』
「あぁ?俺は青峰だ。テツの元、…光だ」
『青峰さん…、』
「前にテツが言ってたぜ?影に影が出来たって。お前のことだろ?」
名前はニカッと笑う青峰に少し呆気に取られた。
『影に影…?』
「そうそう。テツは俺の影で、俺はテツの光だったんだ」
『そんなの初めて聞いた』
「マジで?でもさ、お前は光だろ?なら、鍛えてやる」
ビシッと言った青峰。
『本当…?』
「テツの攻撃を直に受けたのは、こん中で俺だけだぜ?」
「峰ちんさぁ、昔は俺に勝てるのはぁ、俺だけ〜ってよく言ってたよね〜」
紫原が欠伸をしながら空を仰いだ。
『イタイ…』
「テメッ!?」
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