■ 30-future-

 今日の晩飯について俺、青峰大輝は相当悩んでいた。そんなとき、ガクンと自分が倒れ込むのが分かった。

「青峰くん」

 膝カックンをされた。膝カックンをしたのは黒子。

「ぶっ」

 驚いて吹き出してしまった。

「お迎えにあがりました」











Act30 future.












「テツ!?フツーに出てこいよ」

 青峰はただならぬ雰囲気に、スラム街の布張りのテントの外に出た。

「…今日で終わりです。元、…光の青峰くん、…だからおとなしく、捕まってください」

 じりじりと詰め寄る黒子に青峰は冷や汗をかいた。

「い、いきなり現れてそりゃ無いだろ」

「勝手に驚いただけでしょう」

 黒子は眼帯に手をかけた。

「マジか」

「ボクと君はいつかは決別する運命です。ボクは影だ。だけどもう君の影じゃない」

 眼帯の下には何の変哲の無いまぶたが現れゆっくりと目を開ける。

「殺る気か?影は光りに勝てねえ。だけどな、その眼帯の下には何があるか分からねぇから恐ろしいんだ」

「そう。君はこの"目"には無縁でしたもんね。この世界を許さないボクにとって好都合な"目"です」

 眼帯を投げ捨てると目尻に指を沿えほくそ笑む。

「……?」

「もし、影が影じゃないとして世界を壊すためだけの存在なら?もし、影が一人でも十分に戦えるとして影が表情を隠すための仮面だとしたら?」

 浅葱色と縹色の入り混じった淡い瞳にはローマ数字の"T"の文字。

「テツがただ者じゃねぇことは知ってた。特別な力を持っているわけでもねぇ」

「皆は赤司くんが"一人目"だと思っているでしょうが、実は"二人目"なんです。赤司くんに会ったら聞いてみてはどうですか?」

 青峰が短刀を握り、そんな怖ぇこと出来るかっ!!と怒鳴る。

「青峰くん。一人目はこのボクです。この目には薄くローマ数字で1の文字が浮かんで見えます」

「見たら分かる、がテツが持っている能力なんざ俺の足元にも及ばねぇ」

 黒子がクツクツと笑う。手には銃を握り銃弾を装填する。

「ミスディレクションのことですか?あんなの序の口ですよ。下には下がいるように上には上がいます」

「……つまりまだ上があるんだな?」


「はい。確かにボクのミスディレクションはまだ上があります。そして暗殺もキセキと活動していた頃のよりまだ何段階か上がありますからね」

 攻撃のストックはいくらでもある、と黒子が言って銃を構えた。

「俺だって契約者だ。一人目だか知らねぇが、俺に勝てるのは俺だけでテツはただの人殺しだ」

「ボクと君、人殺しに何の偏見があるんですか?同じですよ。ボクも人殺し、だから君も人殺し」

 黒子が軍支給のナイフを投げ、青峰はそれを巧に避ける。スラム街に溢れるゴミから何かが突如飛び出す。黒子目掛けて何かが飛ぶが瞬時に避けた。

「テツってそんな身軽だったけなぁ」

 首元をポリポリとかいた。黒子はまだまだナイフを投げつづける。

「心外です。士官学校で随分とシバかれました。…日向先輩とカントクに」

 果たして日向先輩とカントクがどれ程強いのかは青峰には知らもしないが、確かに黒子は体力がついたようだった。

「へぇ。にしても、生温い攻撃しかしねぇなぁ」

 どうしたんだよ?と青峰が笑うが黒子は目を合わせることがない。そんな状態で戦えばいつかガタが来るのは見えている。

「青峰くん。現在、契約者は何人いると思いますか?」

 青峰からは能力を使った攻撃が続く。依然、黒子はナイフを投げているだけだが。一体どれだけ隠し持っているのか想像もつかないがまだまだストックはありそうだ。

「えーと、赤司と俺と紫原とテツの弟」

「…名前さんは妹です」

 黒子はナイフを投げるのを止めるとコートの下に隠していた大型の銃を取り出しトリガーを前後に動かし弾を装填した。

「…合わせて4人か?」

 黒子は途端に微笑んで、銃弾を放った。

「残念。5人です。いま言った中にボクを含めといてくださいね」

 青峰が物影に隠れる。黒子は銃弾を放つのを止めた。

「…………」

「だんまりですか?…まぁ良いでしょう」

 青峰が隠れている所に向かい黒子は再び銃を向ける。

「一人目と言うのは契約者の生まれた順番のことです」

「………!」

 青峰が息を呑むのが分かった。

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