■ 29

 上層部は今だ空っぽ状態でどの部署も目が回るくらいの忙しさである。
 上層部の殺人事件には不可解な点がいくつかあった。
 一つは凶器が刃物であるが、刃の破片が細かく砕け散ったあとがあったこと。
 二つ目は切り傷以外に内部から破裂したような傷が沢山あり、血の海状態だったこと。
 噂では軍内部に契約者がいるとか。
 それを先ほど黒子の部下に聞いた。












Act29














「テツヤ、言っておくけど私じゃないよ」

「分かってます」

 お昼のスパゲティをツルツル啜りながら黒子は地図を取り出し。はしたないよ、と名前が怒る。

「…今日、どこら辺を歩くの?」

「いえ、やはり一緒に探しているのでは時間がかかります。西町と東町で分けて散策しましょう。幸い、名前さんにはどこからでも意思を飛ばせる能力がありますからね」

「……了解」

 軍に入るのはダメだけど戦うことはオーケーだなんて不思議だが黒子が言うならしかたがない。そんなもやもやした気持ちを抑えてコップの水を飲み干した。

「とりあえずボクは、西町を担当します」

「わかったよ」

 5時に家に集合、とだけ言って私たちは解散した。











***











 東町を虱潰しに歩く。どうやらスラム街が多いようでやたらと小さい子供が走っている。

「頼るべきは友達…だよね」

 私は紫原のいる病院に向かおうかと思い、踵を返した。


「「あ、」」

 バチッと目があった。そこには赤髪でオッドアイの赤司征十郎がいた。買い物の帰りなのか、紙袋を抱えていた。

「やぁ、久しぶりだね。こんなとこにいるなんて珍しいじゃないか」

「……………」

 一気に顔が強張った。構えた所で目の前に沢山の子供。

「名前、ここで戦うのはボクが許さないよ」

 赤司が子供にトマトだのお菓子だのをあげている。

「…ずいぶん懐かれてるね」

「ボクもスラム出身だからね」

 結局、持っていた紙袋の中身を全てあげてしまったらしく紙袋を折り畳みながら赤司は微笑んだ。

「赤司さんをそれでも殺さなきゃいけないの」

「征十郎って呼んで。それ以外は許さないよ」

 なんという威圧感。取り敢えず従うか。というか従わないとヤバそうなのが本音である。

「……………」

「テツヤとは仲良くやっているかい?あ、というかテツヤには僕に会ったことは秘密ね」

 名前は少し考えた後、ヤンキーのように背中を丸めて、ガラの悪い顔で、指先をちょいちょいと赤司に向けた。

「……ちょっと面かせやぁ」

 喧嘩売るときは確かこうするんだったような。今更、意思疎通の能力を使ってもテツヤは恐らくすぐにはこれない。

「名前、ガラ悪くなったね」

「え?じゃあ表でろや!…の方が良いのかな?」

「そういうことじゃないよ」

 探りを入れてみようか。名前は構えを解いた。

「…やっぱ喧嘩は止めた。話しでもしない?」

 赤司の目が細目になり不適に笑って見せた。

「いいよ。僕も久しぶりに名前と話しがしたいからね」












***












 同時刻。西町では黒子が青峰と対峙していた。

「おとなしく、捕まってください」

 じりじりと詰め寄る黒子に青峰は冷や汗をかいた。

「い、いきなり現れてそりゃ無いだろ」

「勝手に驚いただけでしょう」

 黒子は眼帯に手をかけた。

「マジか」

「ボクと君はいつかは決別する運命です。ボクは影だ。だけどもう君の影じゃない」

 眼帯の下には何の変哲の無いまぶたが現れ、ゆっくりと目を開ける。

「殺る気か?影は光りに勝てねえ。だけどな、その眼帯の下には何があるか分からねぇから恐ろしいんだ」

「そう。君はこの"目"には無縁でしたもんね。この世界を許さないボクにとって好都合な"目"です」

 眼帯を投げ捨てると目尻に指を沿えほくそ笑む。

「……?」

「もし、影が影じゃないとして世界を壊すためだけの存在なら?もし、影が一人でも十分に戦えるとして影が表情を隠すための仮面だとしたら?」
 浅葱色と縹色の入り混じった淡い瞳にはローマ数字の"T"の文字。

「テツがただ者じゃねぇことは知ってた。でも特別な力を持っているわけでもねぇ」

「皆は赤司くんが"一人目"だと思っているでしょうが、実は"二人目"なんです。赤司くんに会ったら聞いてみてはどうですか?」

 青峰が短刀を握り、そんな怖ぇこと出来るかっ!!と怒鳴る。

「青峰くん。一人目はこのボクです。この目には薄くローマ数字で1の文字が浮かんで見えます」

「見たら分かる、がテツが持っている能力なんざ俺の足元にも及ばねぇ」

 黒子がクツクツと笑う。手には銃を握り銃弾を装填する。

「ミスディレクションのことですか?あんなの序の口ですよ。下には下がいるように上には上がいます」

「……つまりまだ上があるんだな?」


「はい。確かにボクのミスディレクションはまだ上があります。そして暗殺もキセキと活動していた頃のよりまだ何段階か上がありますからね」

 攻撃のストックはいくらでもある、と黒子が言って銃を構えた。

「俺だって契約者だ。一人目だか知らねぇが、俺に勝てるのは俺だけでテツはただの人殺しだ」

「ボクと君、人殺しに何の偏見があるんですか?同じですよ。ボクも人殺し、だから君も人殺し」






 さぁ、ここからが本番。ボクの本性に近い場所です。











***












「赤司イイィ!!!!」

 名前は大きく鉄の棒を振りかざし、立ち向かった。

「…………」

 名前の前に炎の壁が立ちはだかる。

「今、テツヤが戦ってる。私と征十郎さんは戦うべき。やることは決まっているんだからっ」

 名前は赤司の話しに激昂した。赤司が途端に憎らしく思えた。

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