■ 28

「…ボクは…」

 青空の下、花びらが舞い上がり軍服でもない、私服でもない黒子が何かを言いかけた。

「テツヤ?」

 悲しそうな顔で涙を溜めた瞳を見つめれば黒子は名前から一歩後ずさった。

「名前さんと………く…じゃ……て……び……で…た」

 ダブダブのノースリーブみたいな服に大きく"帝光"と書かれその下には"15"の文字。
 変わった服を着ているな、なんて思っていたら急に視界がぼやけていく。
 名前は焦る。黒子がなんて言ったのか分からなくて聞き返そうとしたとき、美しい青空は遠退き、花と緑の楽園は消えた。

「テツヤッ!!」

 自分の声に驚き、目が覚める。呼吸が荒くなり汗が額を伝い、瞳には涙が溜まっていた。

「あ…、」












Act28












 はぁ、と溜め息がこぼれ布団を抱きしめた。

「夢かぁぁ…」

 なんともシリアスな話だった。

「(何か、いつものカッコイイというより情けない顔してたな)」

 随分と不吉な夢のような気がする。

「(帝光…てーこー?なんだろうな?)」

 ゴロンと寝返りを打つと、一階から黒子の声が聞こえた。

「名前さーん?いつまで寝てるんですかぁ?」

 名前は意味もなく溜め息をつく。

「もう、起きてるよー!!」

 黒子に聞こえるくらいの声量で答えた。パジャマを脱ぎ、着替えて一階へ下りる。

「おはようございます。寝坊ですか?」

「違うもん!」

 すでに用意された朝食に名前は美味しそうと一言、それに黒子は嬉しそうな顔をする。

「今日から一緒に行動します」

「はぁい」

 目玉焼きを乗せたトーストにかぶりつきサクサクと頬張る。
 黒子はもう食べたのか、紅茶を飲みながら新聞を読んでいる。

「名前さん、今回のターゲット…目標なんですが」

 名前はホットミルクを飲んだ後に、うんと返事をする。

「もしかして見つけたの?契約者」

「いえ、いつもみたいに街中を歩いて散策するしかないですよ……………………………………………………あ」

 黒子が最後に"あ"と、もらし動かない。名前は怪訝な顔をする。

「……何?どうしたの?」

 どうやら黒子は名前の反射する白髪に釘付けになっているらしい。今更、白髪に驚くなんておかしい。


「名前さんって、髪の毛の色は白でしたよね?」

「う、うん?」

 そうだけど何か?とは言えなかった。
しかし、黒子は顔を背け、何でもないです、と言い放つ。
 一体、どうしたのだろうか?名前には分からなかった。












***












「…あ」

 洗面所にて鏡を前にして黒子が"あ"と漏らした理由が分かった。
光に反射して名前の髪の毛生え際が少し赤みがかっていたのだ。

「生え際から血…とかないか」

 頭が炎症を起こしているようには見えない。
 どちらにせよ、どうでもいいなんて思って取り敢えず帽子をかぶっておく。
 女子力とかは全く無いが、少し不気味に思えた。あの夢といい、自分の髪の毛といい…、言い切れないくらいに最近の出来事は嫌なものばかりだ。

「まぁ…仕方ないか」

 リビングに戻れば黒子は読みふるした雑誌を前に唸っている。

「テツヤ、何読んでるの?」

 覗き込むとパンツ特集。一体、何回読んでるんだ。この雑誌は確か週刊誌だろうに。

「やはり兄のパンツは不快なのでしょうか」

 そういえば黒子が自分のパンツと名前の服を別々に洗っていたのを思い出す。

「……………」

「名前さんは不快ですか?」

 切実に問われると答えていいのか分からない。

「ナンダッテ、イインジャナイ?ダッテ、カゾクダカラサ!ハハハハ」

「そうですか」

 心底、ホッとしたような顔をしないでほしい。

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