■ 25
黄瀬と緑間が案内したのは小さな病院。受け付けで緑間に「403号室」と言われた。
古いカウンターを乗り出して名前は呼び鈴を押し、しばし待つ。とても時代を感じさせる内装だった。普段、見かけない物などが、なんとなく価値のあるものと分かるくらいに、懐かしい雰囲気を醸し出していた。
「こんにちは」
サッと出てきたのはピンクの髪をした女の子が出てくる。サラサラのロングヘアで、抜群のスタイル、なおかつ美人だ。
「こんばんは。403号室に…」
「あぁ!むっくんね。むっくんって友達が多いのね」
突然、女の子は手を叩いて、目を輝かせた。彼の友達が多いか、少ないかなんて知らないが実際会ったこと無いんです、なんて言えないから愛想笑いをしてしまった。
名前の後ろで静かにしていた黄瀬が突如、身を乗り出す。
「桃井っちだ!久しぶりっスね。前来た時と変わってないっス!!」
「馬鹿か。聞こえるわけ無いだろう」
403号室はこちらですよ、と言って案内をする。彼女は桃井というらしい。
四階の奥から三番目の部屋の前に立つ。
「それではごゆっくり」
一礼して桃井は戻って行った。名前は桃井を見送ったあとドアをノックし開けた。
Act25
「失礼します」
窓際のベットに横たわる人影が反応する。気だるそうに、むくりと起き上がり欠伸を一つした。
「誰〜?俺、眠いんだけど」
見向きもしないで言われた。名前は緑間を見上げると、助言を無言で要求した。緑間は迷いなく答える。
「協力してほしいと言えばいいのだよ」
緑間が名前の背中をトンと押した。名前は反動で一歩前へ出る。
「えと「今の声、ミドチン?」
紫の髪が揺れて血色の悪そうな顔がようやくこちらをむく。長い伸びきった前髪、ベッドに入っていても分かるほどの長身。
「!」
「…違った。誰?」
眉間にシワを寄せて彼は名前を見遣る。すでに彼の瞳からは興味は感じられない。
「えと…、黒子名前です」
「黒子…?」
「テツヤの義兄妹なんです」
彼は少し考えたあと首を更に傾げる。はっきり言うと動作は考える仕草だが、本当に考えているのかは謎な雰囲気だ。
「黒ちん…の?んー…、そうなんだ」
「あと、ミドチンって緑間さんのこと?」
「そうだよ。ミドチンと知り合い?」
名前は返答に躊躇ったが素直に答えた。黄瀬と緑間が彼の元へと案内したのだ。ここは素直な姿勢をとるべきだろう。
「うん。友達だよ。あと涼太も居るよ」
「へぇ…。二人は元気?」
お菓子の袋を開けバリバリと食べはじめる。いかにも体に悪そうなお菓子であるが誰も止めなかった。
「うん。いつも助けてくれる。今日も二人に教えてもらって、ここまで来た。でも、二人はもういないの」
「…どういうこと?」
名前はドアを閉めて彼に近づいた。名前は自分のしたことを認めるように、深呼吸をしてただ一言だけ言った。
「私が殺してしまったの」
「君が…?笑わせないでよ。あの二人がそう簡単に死ぬわけないじゃん。俺と同じで死に損ないなんだから」
「(まぁ正確には俺を殺したのは黒子っちのなんスけどね)」
黄瀬の中で何かが揺れ動く。思わず黄瀬は緑間の手を引いて、紫原の元へ歩み出す。緑間は黄瀬の手を払い歩み出した。
そしてお菓子の袋を取り上げる。取り上げたのは黄瀬だった。
「あ、幽霊が物質触れるとか生意気!」
「緑間っちと俺はここにいるっス!!」
「なっ!?黄瀬!?」
彼が驚いた表情をして目線を名前に移した。
「い、今、黄瀬ちんの声とミドチンの声が!?」
「死んだけどここにいるの」
名前は彼が二人が見えてるものだと思った。しかし違うようだ。彼の視線はいつまでも黄瀬も緑間も、捕らえることが出来ていなかった。
緑間がふうと息を吐いて名前に催促をする。
「ほら、早く用件を言うのだよ」
緑間に急かされ、名前ははっきりと言った。
「協力してほしいんです」
彼はベットに倒れ込み、息を吐いた。その表情は複雑そうで、けれどなんだか嬉しそうで、顔色は悪そうだったけれど、何かを見出したような、そんな表情だった。
「俺、紫原敦」
紫原は頷く。
「そして、契約者」
紫原はベットから出ると不器用に笑って見せた。
「名前ちん、話聞かせて」
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